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「申し訳ございません、只今満席でして……恐れ入りますが、ご予約などはございますでしょうか?」
「いえ……どれくらい待ちますか」
パンケーキ屋に着くと、可愛らしく飾られた店内では人がごった返していた。
店員がメニューを手にやってきて、申し訳なさそうに説明してくれる。
周りを見れば壁に貼られたパンケーキの写真はどれも美味しそうで、こうしている間にも、どんどん人が並んでいく。
案の定、待ち時間は半端なかった。
「なぜ……」
「矢子さん、ファミレスいって、作戦会議しよう! ね?」
呆然とする矢子の腕を捕まえると、ユカが引っ張って店を出る。
「どうして……先週下見に行ったときは、そうでもなかったのに」
「下見に行ったんだ? ひとりで?」
俯いてトボトボと歩く矢子に、なんだか可哀想なのか嬉しいのかよくわからない気持ちが湧き出てきた。
思わずニヤケてしまうのを必死で隠しながら尋ねる。
「ええ。マンゴージュースを飲んだんです、パンケーキは一緒がいいと思って。ジュースだけでも、とっても美味しかったのに」
「そっかぁ。残念だけど、また一緒に来ようよ。ね、楽しみが一個できたよ」
笑いかけると、矢子が蚊の鳴くような声で「ごめんなさい……」と呟いた。
可愛くて綺麗なパンケーキを頬張るユカは、きっともの凄く可愛かったに違いない。
消沈した様子は、ファミレスに着いても続いていた。
「あ、ほら、あのお店、雑誌に載ったんだって。だからだよ」
携帯で先程の店を調べていたユカが「仕方ないよ」と慰めると、矢子はやっと納得したのか、頷いてメニューを広げた。
「お腹空きましたね」
「だよね。私たち、起きてから何も口にしてないもん。食べよ!」
食べ終わった頃には、もう陽が傾きかけていた。
本当はしたいことがいっぱいあったんです、と矢子は残念そうに言っていたが、ユカは割と満足していた。彼女が自分のために頑張ってくれただけで嬉しい。
「ちょっと電車に乗って、プラネタリウムを見に行きませんか」
「おぉ、ロマンチックだね」
数駅先にある科学館に、小規模ながらプラネタリウムがあるのをユカも知っていた。
機材も古すぎず解説もなかなか面白く評判も良い。日によって夜間もやっているので、カップルの間では有名な穴場スポットだ。
電車に乗り、科学館のある場所まで向かう。
ちょっとした森のような場所にある科学館の中庭を少し歩くと、プラネタリウムの建物が見えた。
しかし、館内は薄暗く電気が消えている。
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