文織る世界を君と

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 昔はよかった。  なんて事を思う時がある。何というか、そんな思考自体、自分が歳を取っていることを自覚してしまって爺臭いようにも思えて嫌なんだけど、とにかくふとした瞬間に考えてしまう。  何で今そんなことを思うのかって?  まあ、今に関して言えば、間違いなく置かれてる状況のせいだよ。 「くそっ、いい加減しつこいんだよ……!」  空き教室の教卓。その陰に身を潜めながら思わず毒を吐いてしまう。  別に、生活指導から逃げ回っているとかじゃない。ましてや、風紀委員案件ってわけでもない。じゃあ逃げてる相手は誰なんだって言うと、文芸部だ。冗談みたいな話だが本当だ。 「あーおーいー!」 「げ、もう嗅ぎつけたのか」  外から聞こえてくる声に体を強張らせる。  声の主は、俺の幼馴染にして我が今里第一高校、通称今一の文芸部部員、白石梨花。いや、厳密に言うとまだ文芸部は部として機能していない。そこら辺は、まあ今話し出すと面倒なので置いておくとして。  そして、もうお気づきだとは思うが絶賛、今俺にピンチとして立ちはだかっている存在だ。 「こらあ! 出てきなさい!」 「あー、このままじゃジリ貧だな」  どうやら一部屋ずつ虱潰しにして中を覗いているらしい。そりゃそうだ。いくら教卓に身を潜ませようがこんなもの、外から覗かれれば一巻の終わりだ。鍵を掛けたところでその教室の鍵を取って来られたら一発で確保。  さりとて、今打って出るのは得策じゃない、というかまさに鴨が葱を背負って来るってヤツだ。 「じゃあ出入口と反対方向に逃げればいいかっていうとな……」  ここ、3階なんだよなぁ。つまり、ベランダから飛び降りるという選択肢もない。つか、落ちたら間違いなく死ぬか重傷を負う。想像もしたくねえ。 「うむ。詰んだ」  いや、他人事みたいに考えてる場合じゃねえ。  このまま事態をひっくり返す手段を思いつかない限り、待ち受ける先は文芸部の強制入部だ。それだけは、絶対に嫌なんだ。
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