三月

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ピンポーン。 逆木家のインターホンが鳴った。 家の主、リンドウは気付かない。大学に休学届を出していたため居室でごろごろと、スマホで音楽を流しっ放しにしながら、微睡みの最中である。 ドンドンドンドン。 扉が乱暴に叩かれる音がした。 リンドウは流石に気付いて、徐ろに起き上がって硝子格子のドアに向かった。黒い人影が模様硝子の向こうにぼんやり見える。あれ、今日何かあったっけ、ばあちゃん関係の。もう大抵の事は遺言に従って終わらせて貰ってる筈なんだけどな。そう思って、眠たい眼を擦りながら鍵を開けて扉を少しスライドさせる。 「地獄の底からこんにちは、小野篁です」 「は?」 謎の名乗りを上げた男は、立ち話も何ですので、と勝手に扉の隙間に手を入れてきてドアを全開にして上がり込もうとする。 「いやいやいや、どちら様?」 「申し遅れました、私、閻魔大王の補佐官を務めております小野篁です」 「いやさっき申してるし、立場の説明求めてるんじゃないし」 「取敢えず土間で良いですから入れてください、路地の入口の老婦人が何故か、私を見て竹箒を取り落としてらっしゃったので、私、不審者だと思われてしまっては困ります」 「不審者だろ充分」 「矢張りこの時代では脱帽してご挨拶すべきだったんですかね」 「帽子って、お前それ烏帽子だろ?僕でも知ってるってそれ、折烏帽子とか云う奴」 「おや、よく御存知で、リンドウ君」 「あ、僕の名前知ってるんだ、益々怪しい、地獄でもどこでも帰れ」
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