三月

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その後も黙々と歩く。と、国道を渡る大規模な横断歩道が見えた。赤信号だったので立ち止まる。 その瞬間、リンドウは軽く眩暈を覚えた。何だろ、この感覚。痛い。身体のあちこちが、痺れる様にちくちくと痛み始めている。 「篁」 「リンドウ君、大丈夫ですか」 「お前、何でここに来た?本当に梅見だけか?」 篁はその質問には、方位のせいでしょう、ほら青ですよ、と促した。どうにか渡り始めるが身体各部の痺れる様な神経痛が増してゆくリンドウ。 「痛い、篁、身体が、痛い」 「やはり」 「やはり、じゃないよ、僕」 ばあちゃんからさ、聴いた事、あるんだよ、この近くに住んでた、って。父さんと母さんが、生きてた、僕が記憶のないくらい小さい、頃の、話で。でも。事故が。僕は。その時にさ。ここで。リンドウは切れ切れに言葉を絞り出す。 「リンドウ君、もう良いですから」 「篁」 「もう着きますから、城南宮」 「うん」 リンドウの痛みは、横断歩道から離れるにつれて治まっていった。こいつ、本当に小野篁なら僕の身内にも会ってるって事かな。閻魔大王の補佐官なら。と、歩いている内に不意に身体が軽くなり、芳しい緑の香りが鼻腔を突いた。続いていた眩暈が消えた。 「はい、神苑の拝観券です」 「え、お前いつの間に」 「城南宮は方除の大社と云われているんですが」 「ほうよけ?」 「道中に悪い方角に行ったり、間取りが悪かったり、そう云う方位の悪さから来る障りを祓うんです」 「ああ、何かさっきも方位がどうとか」 「ええ、お詣りしてから神苑の梅見を楽しみましょう」 「え?ああ」
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