七月

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ガリガリガリ。 篁が氷を噛み砕く音が延々と続いている、熱帯夜の夜半前。 「お前いつまで氷食ってんだよ」 「冷たくて病みつきになってしまったんですよ」 「氷を食うって経験がなかったのは分かるけど、氷食症かと疑うほど食うよな」 「ええ、夏越の祓で水無月を頂いた際にふとですね、本物の氷ってこの時代ならば食べられるのかと思い立って冷凍庫なるものを開けてみましたらば」 「お前のせいで一日に何度も製氷皿が空になるよな最近、確かに現代の水道水の氷は安全に食えるから良いけど僕が一々作ってんだから、そこ弁えて」 「はいはい、でも羨ましい時代ですねえ、私のような旧い人間は水無月を氷に見立てて涼を感じると云う大変に涙ぐましい代替策を」 「いやいや旧いってもそれ時代遡りすぎ」 「だって私、氷室を使える程の地位ではありませんでしたもの」 「そう云や氷室とか冷凍庫みたいなものって地獄にはねえの?」 「ああ、八大地獄は暑いんで、八寒地獄からお上が頻繁に輸入しては暗所に保管して使う、と云う形になっておりますが、まあ諸々の冷却に使われるだけの消耗品と云う扱いなんで、食べるって発想は全くないんですよね」 「そうなんだ」
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