七月

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「でも私、こちらで味を占めて以来、八寒地獄から個人輸入の氷定期便を始めてしまいまして、クーラーボックスなる品も先日イアンモールキョウトのスポーツショップで買いましたから、地獄でも氷食べ放題です」 「いつの間にイアンモールまで行動範囲内になってんのお前」 「嫌ですねえリンドウ君、私こう見えても結構アクティブな方ですよ」 ガリガリガリ。 「だからいつまで食ってんだ」 「だって暑いじゃないですか」 「地獄の灼熱慣れしてるお前が云うな」 「いやあ、現代の暑さはまた違いますよ、先程も見ましたでしょ、宵山の報道」 「ああ、六時のニュースの時点でもうあの人混みであの気温じゃあな、まあ、歩行者天国は色々危ないよ」 「でも私諦めませんからね、現代の祇園会の山鉾を生で見ると云う事は譲れません」 「はいはい、でももうこの時間じゃホコ天も終わってるしお前これから仕事だろ」 「ええ、そろそろ行かなくては」 ガリガリガリガリガリガリガリガリ。 現世の氷との束の間の別れを惜しむかのように一気に、小振りな氷を二つ口に含み噛み砕き始める篁であった。
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