三月

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良く分からないままリンドウは拝殿へと向かい、ありったけの小銭を出して手を合わせた。ばあちゃん、あの世にいんのかな。あ、そっか、裁判があるんだよな。こいつの、閻魔大王がどうとか。方位。方位かあ。確か、この近くだったって。父さんも母さんも。地獄にいんのか。よく分からないけど恨んではいないしな、苦労してません様に、と。ぼんやり考えつつお詣りをしてから一礼して顔を上げると、篁はそっとリンドウの肩を押し、近くにある神苑の入口へと促した。ここからは雅なお楽しみですよ、と。 城南宮の神苑は、本殿や拝殿を含む社の敷地をぐるりと取り囲むように巡れる形の庭園になっていると云う事をリンドウは初めて知った。どこを歩いても梅が咲き誇っている。凄いなと、素直に感心しながら、高くなった陽光の降り注ぐ庭園を心穏やかに進む。 「枝垂れ梅ってリンドウ君あまり見た事ないでしょう」 「しだれうめ?枝垂れ桜はよく見るけど、ああ、この一面の、上から垂れて咲いてるのが枝垂れの、梅なんだな」 「普通の形の梅もありますが、ここは枝垂れ梅が有名ですから」 「確かに、雅だな」 「源氏物語の花の庭と名付けられている場所ですから、今歩いているのが春の山と云う所ですが」 山と呼ぶに相応しい、起伏のある一面の緑の地面に椿がそこかしこ、落ちている。本格的なカメラを提げた人々が思い思いに風景を真剣に撮影しているのが、リンドウには割と物珍しかった。
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