七月

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エンヤラ、ヤー。 長刀鉾が四条河原町交差点の辻廻し地点に進入してくる掛け声が聴こえ、沿道から、待ってましたとばかりに歓声がざわざわと広がる。やばい、もう篁も来てんじゃねえの。あいつの事だから京都駅前のヨドガシカメラあたりでデジカメなんぞ調達して持参してる可能性もある。でも辻廻しを撮るなら、やっぱ前方からだし。撮影でも見るだけでも、まあ、こっち側から待ち伏せするしかないよな。全く、どこだよ。見えねえよお。エクスキューズミー。すみませえん。すみませんってば。エクスキューズ、ミー。パードン、通して、通してってば。そうそう。あんた達でかいんだから、ちょっと、間を抜けさせて貰って、さ。その間にも、長刀鉾の前輪の下前には、割竹がどんどん敷かれてゆき、辻廻しに向けての動きが進んでいる。物音が大きくなったのでリンドウもそれに気付いていたため、急いででかい人混みの間を縫って最前列へ向かう。はあ、やっと、見え。え。リンドウが固まると同時に、周囲のどよめきも大きくなる。東の方から悲鳴も聴こえた。長刀鉾の曳子の間に怒号が飛び交い始める。 まさしくリンドウが来たのと同じ、東側から四条河原町交差点へ、まるで普段の四条通の車列の進行の様に真っ直ぐ、突如として現れた小さな竜巻が、みるみる勢力を増しながら、今や遅しと辻廻しの構えに入っていた長刀鉾に迫って来る。まじか。直撃しちゃうって。やばいよ。鉾が。鉾町やボランティアの人達も。危ない。篁もどこにいるか分からないし。そう思う間にも竜巻は、意志を持った生物かの様に、大きなな旋風となって、長刀鉾にぶつかってゆこうとする。
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