七月

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先程の掛け声も嘘だったかのように、音頭取達も鉾前方の石台から飛び降りて後方へ駆け出して逃げ散る。各々の持ち場に拡がっていた綱方の曳子達が弾き飛ばされつつ逃げつつ、四散する。残された二本の綱が風に煽られ昇龍の様に波打ち、浮き上がってゆく。正面からぶつかられた勢いで、重たい前掛も捲れ上がらんとしている。それらの先、竜巻の上方には、最早すっぽりと風の渦に覆われつつある屋根の上の、屋根方が数名、てんでばらばらに、破風にしがみ付いたり真木に掴まろうとして滑ったり端からぶら下がったりと云う形で屋根の上の持ち場から吹き飛ばされている。後方の囃子達は手に手に楽器を持ったまま、ぐらつく屋根の下でひしめき合っている様だったが。 益々勢力を増す竜巻が、長刀鉾の全てを呑み込んだ。
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