95人が本棚に入れています
本棚に追加
/213ページ
話しながら参道を抜け一般道へ出て、帰りの、件の横断歩道。
リンドウは身構えたが、眩暈も痛みもない。お詣りの効果、なんて訳ないか。それか、篁が何か、しているのか、ううん。
無事に竹田駅まで戻り、また近鉄と京阪に揺られて五条駅に着く。そこから正面橋まで南下して、鴨川を渡った所にある路地に、逆木家がある。せせこましい袋小路になった路地の中の旧い民家のひしめく一軒だ。鍵を開けて中に入ると土間は冷やりとしている。最早独り暮らしになってしまっているリンドウは、誰にともなく、ただいま、と呟いた。
「おかえりなさいリンドウ君」
「うん、ただいま、っておい、篁、どこまで付いてくんだ」
「だって私、今日からここで暮らすんですよ?」
「は?」
「私、今は午前零時から朝五時までが地獄勤務の定時でして、勿論六道珍皇寺井戸から出勤するんですけど、あ、お金なら心配御無用、給金は現代の日本円にすればかなりのものですので、あと時間的にまだ間があるんで一緒に遅めのブランチとやらでもと、ええと台所は」
「何勝手に上がり込んでんだあああ」
「ですから」
靴、ならぬ沓を脱いだ、スーツ姿に折烏帽子を添えた男は、土間の上り口に座り三つ指を突いて頭を下げた。
「改めまして、地獄の底からこんにちは、小野篁です、不束者ではございますが本日からこちらの逆木家にて日々をあなたと共にさせて頂きます、宜しくお願い申し上げます」
「お前は新妻かああああああああああああ」
リンドウの、諦めの混じった怒号が、寂れた一軒家に響いた。
最初のコメントを投稿しよう!