7章

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 まぁ、隆さんのことはいいんです。今更彼の働きに期待するつもりはありませんから。隆さんは自分の趣味である車を乗り回すこと以外に興味の無い人なんですから、好きにしておいてもらいましょう。  そんなことより木下先生です。今日の彼ったら、一段とイケメンなんですよ!  普段は黒髪をきっちり七三分けにしてワックスで固め、白いワイシャツに地味なネクタイを締めることで、なんだかむりやり真面目を演出しようとしているような印象を受けるのに、今日は校外だから? ネクタイは無く、濃青のジャケットを羽織っただけの緩すぎず、固くなりすぎない爽やかな装い。  髪の毛もいつもよりふわっとさせていて格好良く、こういうのは髪の薄い隆さんにはできないことね、なんて思っちゃいます。 「どうしました、ミチコ先生?」  しかもそんな映画のスクリーンから飛び出してきた二枚目俳優さんみたいな人が、倫子さんを間近から見つめてくれるんですよ! あぁもう、どうしましょう! (……って、どうもしなくていいからね)  倫子さんはうっかり彼の容姿に見惚れてしまった自分を恥じ、浮かれきった自分の頭を心の中でポカポカ叩きました。  あくまで、木下先生は職場の同僚です。  確かに格好いいですし、その人柄には倫子さんも惹かれていますし、その上彼の方もなぜだか倫子さんに懐いてくれていますが、それ以上を望むなんてありえません。こんな浮かれた気持ちは、倫子さんの心の栄養とさせていただいたらそれで十分です。
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