7章

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 一生懸命練習した成果をこの大舞台で遺憾なく発揮できている……これは彼女たちにとってかけがえのない財産になることでしょう。  だって聖愛は自由スピーチの中で言っていました。  私には夢がありました。入りたい中学校があったのです。  そのためにたくさん勉強しました。  けれどもその夢は叶いませんでした。  私はとても凹みました。何もする気が起こりませんでした。  頑張っても夢は叶わないと知ってしまったからです。  それでも私は今、ここに立っています。  素晴らしい仲間たち、先生たちに出会い、もう一度頑張ってみる気持ちになれたからです。  私を信じ、私にもう一度夢をくれた……私を応援してくれた人たちに感謝の気持ちでいっぱいです。ありがとう。 「……ミチコ先生」 「今、涙腺が緩みきってるのよ」  頭上からの声に、倫子さんは弁明しながら涙を拭いました。  実はマコちゃんと行っていた自由スピーチの練習の方に参加していなかった倫子さんは、聖愛達がどんな話をするのか、これまではっきりと聞いていなかったんです。  挫折からの復帰。  僅か12歳の少女には過酷な経験でしたが、彼女はその小さな体で、ちゃんと乗り越えることができたのです。  今の倫子さんの心はヒビの入ったガラス瓶状態。刺激を受けるたびにヒビは大きくなり、体中の水分が滲み出るのを自分では止められません。  倫子さんは教え子たちの舞台を壊してしまわないよう、声を殺してしゃくり上げていましたが、その頭上で彼がひときわ大きな吐息を漏らしたのを感じ取りました。  いい歳したおばちゃんが大泣きして、呆れられたのかしら、と心配になったのですが、違います。彼は困惑と切なさの入り交じった声で倫子さんに囁いてきたのです。 「そんなに可愛く泣かないでくださいよ。理性が抑えきれなくなります」  その言葉を倫子さんの頭が理解するより前に、木下先生は倫子さんの肩をぐいと抱き寄せました。 769fb9ad-7ed4-4a5b-8ea0-95e0764a86ea (イラスト ハナ様)
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