8章

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 3人で並んで座った新幹線の窓からは、さきほどから真っ暗なトンネルの景色しか見えません。国境のトンネルは全長30kmを超える長さだからです。  あまりに単調な景色に飽きて、倫子さんが車両の入り口頭上にある電光掲示板式のニュースをぼんやり眺めていたら、トンネルの向こうは40℃越えのうだるような暑さだと報じていました。  そうそう。ノーベル賞作家が描いた雪国は美しい銀世界ですが、夏の雪国は酷い暑さに見舞われる地獄なんですよね。 「まさにフェーン現象だねぇ」  倫子さんの隣に座っている有紗も同じニュースを眺めていたようで、しみじみと呟きました。 「夏は南東の季節風が吹くから、越後山脈を越えるときに日本海側はどうしても温度が上がっちゃうんだよね」  中学受験で散々フェーン現象を勉強してきた有紗の脳裏には、イラスト付きの解説が浮かんだようですが、滉大はその隣で無心におやつのグミを食べています。  有紗にはその態度が引っかかったようで「あんた、フェーン現象分かってる?」と、突然話を振りました。  当然ぽかんとした顔のまま首を横に振る弟に、有紗はため息交じりで説教を始めます。 「ほら、単語を知らないと何も耳に入ってこないでしょ。そこなんだよね、勉強のメリットって。詰め込み学習は駄目だ、考える力を身に着けないといけない、とか言われてるけど、分かっておかないとそもそも考えることもできないんだから」  だからあんたも勉強しなさい、と有紗は言い出しました。 「もう4年なんだから、受験するならそろそろ勉強始めた方がいいよ」 「でも野球あるから、受験勉強なんてできないよ」 「体を動かしてる子のほうが勉強の集中力も高いから、身につきやすいらしいよ。絶対やるべきだって。分からないことが分かるようになるって、楽しいよ」 「そうかなぁ?」 「それに中高一貫だったら高校受験が無いから、野球も切れ目なくできるじゃん。中学のうちからハイレベルな高校生と一緒に野球できるのも魅力だし」  ……えーと。もしかして塾の回し者ですか、有紗ちゃん?
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