UFO襲来

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UFO襲来

「あぁ! クッソ! やられた!」  深夜二時。俺氏は某有名オンラインRPGの討伐依頼クエストをこなしていたが、二時間にも及ぶ死闘の末、うっかり気を抜いたせいであと一歩及ばず全滅してしまったのだ。  二時間だぞ? 二時間。二時間も戦って負けてしまうと、リアルの気力も体力も根こそぎ尽きてしまう。ゲームの中であればアイテムや魔法で回復が出来るが、現実世界ではそうはいかない。  しばし放心状態だった俺氏は、リアルの世界に存在する俺氏自身の体力回復をはかるため、夜食を食べようと思いキッチンへ行こうと自室から出ようとした時だった。  カーテンの隙間から光が漏れている。こんな真夜中にだ。この時間帯であれば、それなりの田舎であるこの近辺は間違いなく外は暗いはずなのに。そもそもここは二階だ。  ……そう思いながら少しだけカーテンを開き外を見下ろした。そして俺氏は光の速さでカーテンを閉じた。 「……!? ……!?」  言葉なんて出ない。いや、出してはいけない。家と裏山の間にある裏庭に、緑とも黄色とも言えないような発光体があった。蛍のような色合いで光るそれは、例えるなら洗濯機ぐらいの大きさだろうか。ただ、強弱をつけて光るそれは蛍のような儚さはなく、力強く光る様はまるで心臓の鼓動のようだ。  そっとスマホを持ち、カメラモードにしフラッシュをオフにする。そして数センチだけカーテンを開けて確認すると、発光体は未だに蛍のような色合いでポワン! ポワン! と点滅を繰り返している。  俺氏は連写モードで写真を撮り、怖いので三秒だけ動画も撮ったあとカーテンを元に戻しパソコンの前に座った。  こんな時は心の拠り所であるあそこに行くべきだ。紳士による紳士の為の大型掲示板『お兄ちゃんねる』こと、通称『兄ちゃん』だ。  パソコンデスクに座り、真後ろの窓を気にしながらいつも以上に高速でタイピングをする。 ───────────────────────── 【緊急】俺氏の家に謎の発光体現る  0001:1:20**/05/** 02:05:48 マジなんだが 0002:真の紳士:20**/05/** 02:07:36 2get 0003:真の紳士:20**/05/** 02:08:59 クソスレ立てんな 0004:真の紳士:20**/05/** 02:10:27 嘘松 0005:真の紳士:20**/05/** 02:14:43 うp ─────────────────────────  クソ……。煽られた俺氏は先ほど撮った画像を貼った。「もしかしてUFO?」と書き込みがあり、その後深夜にも関わらずスレが伸びて行く。そのほとんどが「凸れ」だの「逝ってこい」だった。こいつらネタだと思って好き放題言いやがって。本音を言えば怖いんだよ!  スレ立てまでしてしまった俺氏は引くに引けなくなり、バクバクと鳴る心臓の音すら気付かれるのでは……と思いながらも、スマホを手にし階段を降りる。もちろん電気など付けない。  長年住み慣れた家なので、ある程度は見えなくても平気だったが、実際は家中の窓から漏れる光によって家の中が照らされ、薄明かり状態なので難なく玄関に到達してしまう。  この家は古い造りなので、玄関の戸は二枚の磨りガラスのスライド式だ。その磨りガラスの戸は発光体とは真逆の方向にあるはずなのだが、発光体は家の周囲も照らされる程に光を放っているようで点滅が分かる。俺氏はとりあえず玄関の写真と動画を撮影した。  かなり気を使って音を出さずに鍵を開け外へと足を踏み出した。光が強くなったタイミングで草を踏み、足音が出ないように慎重に家の裏へと向かう。変な汗が止まらない。自分の呼吸音すら爆音に聞こえ、余計に汗をかいてしまう。  裏庭に足を踏み入れ、家を盾にして隠れるように右目だけでそっと覗くと、やはりそこには光る洗濯機(仮)があった。震える右手を左手で押さえ、なんとか一枚だけ写真を撮ることに成功した。  家の陰に全身を隠し、先ほど玄関で撮った写真と今現在の写真を「兄ちゃん」にスマホから投稿する。  音を出さないようにとスマホで一文字打つのすら、手が震えやたら手間取る。自分の投稿を確認すると、どんどんと書き込みが増えている。 ─────────────────────────  0527:真の紳士:20**/05/** 02:33:27 うはwマジもんかwww 0528:真の紳士:20**/05/** 02:33:58 丁重にもてなせ 0529:真の紳士:20**/05/** 02:34:16 お前の行動によって地球の命運が決まる 0530:真の紳士:20**/05/** 02:34:32 は?釣りだろ? 0531:真の紳士:20**/05/** 02:34:58 今北産業 0532:真の紳士:20**/05/** 02:35:41 >>0531 イッチの家に UFO あらわる ─────────────────────────  目の前で光る物体の正体が分からない今、恐怖しかないが同じくらい好奇心も湧き上がって来る。  俺氏は紳士でもあるが少年の心をまだ持っているんだ。恐怖と興味とが混ざり合うが、こんな感覚は何年ぶりだろうか?
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