食べろ、食べろ、食べろ

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 それは学校の食堂でのことだ。  いつものように昼食の時間、俺たち3人組は食堂の隅のいつもの場所に座っていた。  俺たちのことをよく知らない新入生のガキが座っていたから、トレイに入っていたパンを取って放り投げてやったらビビって逃げていったぜ。  学校っていう所はルールがある。その前に階級があるんだ。  俺たちはその階級の一番上にいる。  だから、下の階級の奴らは俺たち3人組のご機嫌を損ねないように行動しなくちゃならない、それがこの学校のルールだ。  俺の名前はブライアン、野球選手のブライアンと同じ名前だ。親父が地元の野球チームのファンで――といっても地元の人間は地元のチームを応援するのがルールみたいなものだが、とにかくそこのチームのピッチャーと同じ名前をもらったのが俺ブライアンだ。  野球選手と同じ名前だけれども、俺は野球をしない。  俺たち3人組はこの学校で一番偉いんだ、野球部員たちよりもな。  野球部員のやつらときたら、毎日、毎日、放課後になったらグラウンドに集まって、コーチのいいなりになって野球の練習をする。  俺はそんなのまっぴら御免なんだよ。大人にペコペコするのがさ。  俺の隣で笑いながら前のテーブルで飯を食っている間抜け――いや歯抜けのジェームスにパンをちぎって投げて遊んでいるのが、俺の相棒、一番の仲良しのトッドだ。  奴の父さんは鉄道技師をしていて、線路の上に異常があると――よく石や動物の死体なんかが線路の上に転がっているんだ、それを片付けに行ったりするんだ。  さっきから歯抜けのジェームスのやつがパンがぶつけられるたびに振り返ってやめてくれというジェスチャーをするが、そんなことをしても無駄だぜ。ここでは俺たちがキングなんだから、歯抜けのジェームス、道化師みたいなやつは――こいつの顔はいつ見てもおもしろいぜ、前歯が抜けたのにまったく生えてこないんだ、俺達が飽きるまで、黙ってパンをぶつけられていなくちゃならないんだ。  俺の向かいの席でナイフを弄っているちょっと危険な奴がマクドナルド。こいつは謎の男だ。こいつの親が何をしているのかも俺は知らない。こいつはあまり話さないやつだからな。  でもこいつはクールなやつで、他のやつらみたいにおどけた所を人に見せたことがない。こいつと一緒にいると頼りになるぜ。こっちまでタフガイになったような気分だ。 「おい、見ろよ」  俺はテーブルの上に薬瓶を出す。 「何だ? モルヒネか?」  トッドがいつものように冗談みたいに言う。 「違う。これはな――」  俺は今日のためにこれを保健室から盗んでおいたんだ。  昨日、たまたま保健室の前を歩いていたら、保健室の先生ハンプティーが――童話に出てくるハンプティー・ダンプティーに似ているやつさ、つまり太っているんだ、やつが学校の生徒の誰かがグラウンドで転んで怪我をして動けないからっていうんで、薬箱を持って保健室から出てくる所に出くわしたんだ。  保健室の中を覗いてみると誰もいない。  ハンプティーのやつは急いでいたんで、保健室に鍵をかけるのを忘れていったんだ。   当然のごとく俺は保健室の中に忍び込み、何かいいものがないか物色をしはじめたんだ。 「先生、ロングフィールド先生」  この声は、体育教師のブルックスだ。  あいつは俺たちを目の敵にして、いつも俺たちの邪魔をしてくるんだ、俺たちはただ遊んでいるだけなのに。  やつの声が近づいてくる。  まずい、やつに見つかったらまた怒られるぞ。  おっと逃げる前に――と、俺は近くにあった棚から薬瓶を適当に2~3個ポケットにつっこんで窓から逃げ出した。  俺は校舎の裏まで走って逃げてきてから――あの体育教師のブルックスは足が早いからな、やつに見つからないように全速力でここまで逃げてきたんだ。  おかげで脇腹が痛い。くっそう、いつかあいつに痛い目を見せてやらないといけないな。  ブルックスのやつは国語教師のナンシーのことが好きだから――前にナンシーのでっかい胸をあいつがじっと見ているのを俺は見つけたんだ、だからそれを利用して何とかあいつに痛い目をみせてやるぜ。  例えばナンシーの下着を盗んで、あいつのロッカーに入れておいて校長に知らせてやるとかな。『校長先生大変です。ブルックス先生がナンシー先生の下着を盗んだんです、見てくださいこれ』とか言えばあいつは大慌てするに違いない、そうなればあいつは学校をクビになるだろうからな。  まあ、それは後のことだ。今は盗んできたあれを確認しなくちゃな。  俺はポケットから盗んだ薬瓶を出して見た。  何々『頭痛薬』? 俺は瓶を放り投げた。俺は頭は痛くない。  そして『ビタミン剤』か、野球部のやつらが欲しがりそうだな、奴らは身体の栄養のことばかり考えているからな。これは後でやつらに売ってやるか、小遣い稼ぎに。  ポケットの中に『ビタミン剤』をしまう。  最後は――これは使えるぜ。ふふふ、明日の昼休みにでもトッドとマクドナルドの見ている前で使えば、きっと奴ら大笑いするぜ。 「それで、これは何なんだよ」  トッドが早く言えと急かす。こいつは気が短い。  マクドナルドも興味津々で瓶を眺めている。こいつは薬とか好きそうだからな、ハイになる薬とかな。 「まあ、慌てるなよ」  すぐにこいつらに教えても俺がつまらない。 「あそこのアイツを見てみろよ」  食堂の隅の方で一人でもぐもぐ口いっぱいに食べ物をほうりこみながら食べているやつがいる。  あいつは皆んなからニーチェって呼ばれている。何でそう呼ばれているか俺は知らない。それは今は関係がない。大事なのはやつがよく食べるってことだ。  俺は皿の上にあったサンドウィッチの中に薬瓶の中身を入れて蓋をする。  これで外からは分からないぜ。  俺のやることを二人が興味津々で見ている。 「今からこれをあいつに食わせてやるんだ」  俺がにやりと笑う。 「あいつがそれを食べたらどうなるんだ」  トッドが尋ねる。  マクドナルドも俺に言えというジェスチャーをする。こいつは本当にしゃべらないやつだ。 「それは、見ていれば分かるさ」
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