食べろ、食べろ、食べろ

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 俺たちはニーチェの前までやってきた。  ニーチェは赤い縞々のシャツを着ていて、それがやつの太った身体で服の赤い線が抽象画のようにグニャリとゆがんでいる。  それにしてもこいつはだらしない身体をしているな。食うことしか興味がないんだろ。  ニーチェのやつはいつも昼休みの間中、食堂で食べ続けている。「みろよ、あいつまだ食っていやがるぜ」といつも俺たちが昼休みに食堂の前を通る時に言うのが口癖になっているほどだ。 「おい、ニーチェ」  やつが間抜け面でこっちを振り向く、これから何が起こるかもしらずにな。「これやるよ」  俺がサンドウィッチの入った皿を差し出す。  それをニーチェのやつがしげしげと見つめる。  何だ、こいつあやしんでいるのか? さっさと食えよ、じゃないと俺たちが楽しめないんだよ。 「食ってもいいの」 「ああ」  そのために持ってきたんだろ、いいから食え。  ニーチェが皿の上からサンドウィッチを手に持って口に運んで頬張る。  ここで俺はトッドとマクドナルドに耳打ちをして、中に下剤が入っていることを教える。  二人はそれを聞いてゲラゲラ笑い出す。 「おい、あんまり大きな声で笑うなよ。やつに気づかれるだろ」  俺は二人に注意する。  ニーチェがサンドウィッチを飲み込んだ。  それを見守る俺たち3人。  ……何も起こらない。  俺たちは顔を見合わせる。 「どうなってんだ」  トッドが小声で俺に聞く。   俺が知るかよ。薬の瓶に書いてあった使用量の3倍を入れてやったのにニーチェのやつは何ともなさそうだ。  俺たちは不審がる。本当にどうなっているんだ、こいつ。太っているから薬の効きが遅いのか? 「もう無いの?」  ニーチェが俺を見る。 「ちょっと待ってろ」  そう言って俺は自分たちのテーブルに戻り、トッドのやつのサンドイッチを開いた。  俺は二人にニーチェに見えないようにガードしろよという。  二人は俺とニーチェの間に立って俺の方をチラチラみる。  俺はトッドのサンドイッチの中に下剤を全部入れてやった。  これならさすがのニーチェも無事ではいられないだろう。  下剤を全部飲み込んだら、あいつの身体が爆発するかもしれないな。  俺はやつの身体が爆発する姿を想像してゲラゲラ笑った。  トッドとマクドナルドも下剤の中身を俺が全部入れたのを見て笑っている。  俺たち3人は下剤入りのサンドウィッチを持ってニーチェの所に戻った。 「ほら、食えよ」  俺がサンドウィッチを差し出す。 「食ってもいいの?」 「ああ」  何も知らずにニーチェが皿の上のサンドウィッチを取る。  それをニヤニヤしながら俺が見る。  トッドがマクドナルドに何か小声で言って、マクドナルドがニヤリと笑う。  さあ、食え。これからこいつがどうなるか楽しみだぜ。こいつが慌てて太った身体をブルブル揺らしながらトイレに駆け込む姿が今から頭に浮かぶぜ。  ニーチェがサンドウィッチを口いっぱいに頬張る。  それを俺たち3人組がじっと見守る。  もうすぐだ。もうすぐ――――。  何も起こらない。 「おい、どうなってんだ」  トッドが小声で俺に言う。  知るかよ、俺が知りたいよ。  ニーチェを見るが、やつの様子に何の変化も見られない。  何だよ。くそう、おもしろくない。 「おい、向こうにいこうぜ」  白けてしまった俺はトッドとマクドナルドに言う。  するとニーチェのやつが「もっとないの?」と言ったので「そんなに食いたきゃ自分の身体でも食ってろよ」と俺は言ってやった。 「食ってもいいの?」 「ああ」  俺は適当に返事をして自分のテーブルに戻ろうとした。  戻ろうとしたが、俺の身体が動かない。  何かに腕がひっぱられているような感じだ。  トッドとマクドナルドが驚いたような顔をして俺の右腕を見ている。  やつら何を見ているんだ? 何をそんなに驚いているんだ?  俺が右手を見ると――右手を見ると――ニーチェの野郎がこともあろうか、俺の右手を食ってやがった。 「おい、何してんだよお前」 「食ってもいいっていったじゃないか」  口の中に俺の右手をくわえながら、ニーチェが言葉にならない声で言う。  くっそう、この野郎、俺の手は食い物じゃないぞ。俺が食えって言ったのはお前の身体のことだ、バカヤロー。  ニーチェがさらに俺の右手を食い進める。すでに奴は俺の手首まで飲み込んでいる。 「おい、助けてくれよ」  俺はトッドとマクドナルドの方を見る。  トッドのやつはすでに食堂の出口のあたりまで走って逃げて今にも視界から消えそうだ。  マクドナルドのやつはナイフを落として「うわあぁぁぁ」と言って背中を見せて逃げていく。  お前はそんなキャラじゃないだろう。見掛け倒しかこいつは。  俺は誰か助けてくれないか辺りを見回すが誰も俺を助けようとしない。  いつも俺たちにいじめられていた周りのやつらは、じっと俺が食べられるのを見ているだけだ。 「おい、何さわいでいるんだ!!」  この声は!!  体育教師のブルックスがこっちに向かってやってくる。  やったぜ。今まであいつのことを嫌っていたが、今日ほどあいつがいて良かったと思ったことはない。   さあ、俺を助けろ。 「先生、助けてください!!」  俺はブルックスに助けを求める。  ブルックスが俺の姿と、俺の腕に食いついているニーチェの姿を交互に見る。  すると――すると――くっそう、ブルックスの野郎。やつも俺に背中を見せて逃げ出しやがった。  お前は逃げたら駄目だろう、教師なんだから。  俺がニーチェの方を見ると、奴はすでに俺の肘までを飲み込み、さらに俺の肩の方まで食い進んでいる。 「くっそー!!!、誰か俺を助けろー!!!」  食堂に俺の声がこだました。
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