第五章 王子と魔女

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 後日、ユリウス=ストランドは病死と発表され、王家の墓に埋葬されたと正式に発表された。  無論、全て偽りである。しかし民たちには知りようも無いこと――王家はそう思ったのだろう。骸の窖も閉鎖され、城を取り囲む森は完全に立ち入り禁止となった。  だが、秘密はどこからか漏れるもの。そして、性質の悪いことに正しい内容で漏れ広がるとは限らない。  曰く、王子は愛する魔女を庇って死んだのだ。  曰く、実は王子は生きており今でもあの森で魔女と共に暮らしているのだ。  曰く、やはり魔女は悪魔の眷属で王子を殺害したのだ。  虚実入り混じった荒唐無稽な噂話が町に広まった。  そんな噂話が別の噂話とくっつき、また別の話が生まれ――そうしていつしか噂話は"物語"として語り継がれるようになる。    数十年、いや百年余りの時が流れただろうか。  この国には今も王子と魔女の伝説が語り継がれていた。  誰一人として幸せにならない悲しい物語が、町中の至る所で聞くことが出来る。 「どうだい? 悲劇的な純愛物語だろう?」  伝説を語り終えた吟遊詩人は目の前の客に尋ねた。  その客は面白そうに――そして、どこか悲しそうに微笑み頷く。 「えぇ、そうですわね」  大きな紺青の瞳をした、美しい銀髪の娘はそう応えるのだった。
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