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「止めるのは貴方がただ!」
会場中に響き渡るような大きな声が男を制した。王子の声だ。
先ほどまでの弱々しい声などではない、力強さに満ちた声。思わず男もあとずさり、そのまま拳を下した。
「彼女はわたしの治療をしてくれたんだぞ。それなのに、その仕打ちはなんだ!」
怒気を孕んだ王子の声に群衆は静まり返った。
「殿下。そう声を荒げるものではありません」
代わりに静かな声で応じたのは魔女だった。
「呪いの治療もまた呪術の一種。普通の方々の目から見れば、怪しく、汚らわしいものに映り、決して相容れぬものなのです。この方たちを責めることはありません」
魔女は穏やかな声で告げると、役目は終わったとばかりに立ち上がり、王子と群衆に一礼して歩きだした。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。えぇと、確か名前は……」
立ち去ろうとする魔女を王子は呼び止めた。
「……。テレサと申します。テレサ=ノルダール」
僅かな迷いを見せた後、魔女は名乗った。王子はそれを聞き、満足そうに微笑むと、すっくと立ちあがり魔女の傍らに駆け寄った。
「この場にいる全ての者に宣言する。わたし、ユリウス=ストランドは、テレサ=ノルダールを婚約者候補に選ぶこととする!」
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