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第三章 魔女の憂鬱
ユリウス王子が連日のように骸の窖に通っているという噂は瞬く間に広まった。
その結果どうなるのか。火を見るよりも明らかだった。
「殿下。確かに先日、逢いに来るのは迷惑では無いと申しました」
バツが悪そうな表情を浮かべる王子を前に、魔女は努めて冷静に言葉を紡ぐ。――もっとも、隠しきれぬ怒りが如実に漏れ出していたが。
「ですが、なんですかこの状況は!」
魔女が周囲を指さした。
普段は人など殆どいない筈の骸の窖。しかし、今は人で埋め尽くされる有様だった。
王子を慕う国民たちが、噂を聞きつけて押し寄せたのだ。
流石に地下墓地の外ではあるが、まるで祭りの如き賑わいはとても墓地とは思えない。
「す、すまない。こんなことになるとは……」
王子も頭を下げる他無かった。
「ところで、どうしてまたフードを?」
「……こんなに人がいるのに目立ちたくはありません」
魔女は顔を隠すように更にフードを目深に被る。かえって目立っているのではないか……と思うも、王子はそれを飲み込んだ。
「とにかく、わたしは地下へ行きますので。殿下はこの人たちをどうにかしてください。あまり騒がしいと研究にも支障が出ます」
憤りを露わにしながら魔女は一人、地下墓地の中へと下りて行った。
『骸の窖への無用な来訪を禁ずる。かの地は本来、王家の私有地であり、死者を埋葬する場所として特別に開放しているものである。このところ死者の埋葬とは無関係に訪れる者の数が増えているが、これは王家私有地への不法な侵入となるので以後は控えるように。今後、無用な来訪が発覚した場合は法に基づき裁きを下すものとする。ユリウス=ストランド』
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