記念日

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「ハッピバースデーツーユー」  歌い声がする。  店の電気がついた。  そこにはケーキにロウソクをさして火を点けたバースデーケーキを手に持った俺の親父がいた。  パーン  他の客たちがクラッカーをならす。  どうやらこれはビックリパーティーというやつのようだ。  海外のドラマや映画でよく見るあれだ。 「お誕生日おめでとう」   親父が笑顔でケーキを俺のテーブルの上におく。  やられた。   そういうことか。  さっきからの店員の間違いでカルボナーラスパゲティやカツ丼やチョコレートパフェが持ってこられたのは、俺の誕生日のために俺の大好きな食べ物をわざと俺のテーブルの上に運んできたんだ。  恐らく親父は仕事をクビになって失業中の俺を元気づけるために、このビックリパーティーを企画したんだろう。  他の客たちが笑顔でおれの方を見る。  恐らく俺の親父は昔から俺がよく来るこの店に頼み込んでこのパーティーの準備をして、たまたま店にいた他の客たちにもこのパーティーに協力してくれるように頼んだのだろう。 「お前も失業して落ち込んでいるかも知れないが、これでも食べて元気をだしなさい」  親父がケーキを切り分ける。 「失業したって落ち込むなよ」 「頑張れ」 「お前ならやれる」  他の客たちが俺を励まして激励の言葉をかけてくれる。  呆然と立ち尽くす俺の顔をみて親父があっ、あれを忘れていたという顔をする。 「ああ、ごめん、ごめん。お前の一番大好きなあれがまだだったな。カツカレーライスは今店の人がすぐ持ってきてくれるから待っていてくれ」  親父が厨房の奥に向かって声をかける。  そうじゃない。  おれが黙って立っているのはそうじゃないんだ。   俺が黙って立っているのは……。  俺の視界の隅に血を流して倒れているさっきの店員の姿が見える。  さっき、店の電気がつき他の客がクラッカーを鳴らした時に――鳴らした時に――俺はその音にビックリして銃を発砲してしまったんだ。  親父や客たちはクラッカーの音だと思って、まだそれには気がついていない。  でも、すぐに気がつくだろう。  せまい店内に胸から血を流した店員が倒れているのだから。  くっそう。  どうしよう……。
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