裏切り者

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裏切り者

 朝。 いつもとなにも変わらない。  ぐしゃぐしゃに散らかった机。 床に放り投げられているリュック。 その中を覗いてみる。 昨日昼休みにしまったままのお弁当箱がそこにいた。 とりあえずフタを開ける。  なんと、僕が起きる前に母さんがお弁当箱におかずとご飯をぎっしり詰めてくれていた。 はずもなく、嫌な匂いが鼻を刺した。    僕は、お弁当箱を持って1階のリビングへ降りた。 いつもなら聞こえる料理をする音が聞こえない。 扉を開けて確認してもやっぱり母さんはいなかった。  分かってはいたけれど、なんだか心にモヤっと霧がかかった。 試合に負けたときみたいな気持ちだった。 怒りよりも悔しい気持ちで張り裂けそうだったのだ。  冷蔵庫を開けて朝ごはんになるものを探す。 食パンを取り出してトースターで焼いて、いちごのジャムを塗って食べた。 食パンを持っていくことも考えていたが、今食べたのが最後だった。  食べながら考えていたことはただひとつ。 昼食をどう乗り越えるか。 みんなに少しずつおかずをもらうか。 それとも、今日は我慢するか。  どれも情けなくて昨日「ごめんなさい」の6文字を口にすることができなかった自分を恨んだ。  冷蔵庫を覗いて物色したけど、特に持っていけそうなものはない。  あきらめよう。 そう決心してリビングを出て玄関に向かった。 なにも良い案はないし、どうすればいいかもわからないけれどとりあえずいっこくも早く家から飛び出したかった。  心の奥では、母さんがなんにもなかったかのようにお弁当を作って「おはよう。リョウキ!今日も気合入れていきや!」って言ってくれると思っていたのかもしれない。  裏切られた。 けれど勝手に期待したのは僕だ。 もしかしたらそんな期待をした僕こそ裏切り者なのかもしれない。  恥ずかしくなって早足になる。 とんとんとんとんという僕の足音がみんな寝たままの家に細々と響く。  
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