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赤鬼のツノ
靴に足をおもむろに突っ込んで、かかとを踏んだまま立ち上がる。
ふと目線の先にうつったものは、白いと黒の柔らかな角のたった物体。
靴箱の上、その物体がラップにくるまれて2つ並んでいた。
普通じゃ靴箱にあるものじゃないからそれがなにかすぐには分からなかった。
しかし、数秒たって理解した。
それはおにぎりだった。
ピッタリと隣合わせで並んだ2つのおにぎりを僕はただ少しの間眺めていた。
眺めていると、昨日の真っ赤になった鬼みたいな母さんの顔が頭に浮かんだ。
そしたら今度はおにぎりが赤鬼のツノに見えてきた。
僕は、ハッとして誰にも見られないようにそそくさと2つのおにぎりを両手で掴みリュックに放りこんだ。
そして、玄関の扉を開け外へ出た。
今は夏だけど、朝の空気は冷たい。
スッと冷たい空気の中でおにぎりの暖かい感覚が手のひらに残っている。
僕は、その手で自転車のハンドルを握り漕ぎ出した。
小さい頃よく遊んだ川に沿った道を走る。
ふと口元がほころんでしまっていることに気がついて、気を引き締め直した。
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