徘徊すべき欠落

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　彼女は小さく頷いた。

「初めて現実の世界で彼女を見たのは電車の中でした。……午後11時を少しまわった頃でした。下りの電車のなかはがらんとしていました。それで私はついついウトウトしてしまって……。でも目が覚めた瞬間、確かに彼女が私の斜め左前方に座っていたのです」

「なるほど。でも一方で、あなたはかなりお疲れだったわけですよね? 見間違いという可能性はありませんか?」

「距離は3,4メートルしか離れていませんでした。私、視力はけっこういいはずなので、見間違いということはないと思います。……だって服装も夢の中とまったく同じだったのです」

　すがるような彼女の表情に気押されて俺は口をすぼめた。