プロローグ

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プロローグ

例えば仕事でつまらないミスをして叱られた時、一人暮らしの身で風邪を引いて誰にも看病してもらえず弱っている時、せっかくの休日に何もすることがなく無為に一日を消費してしまった時。 そういう、なんとなく気分が落ち込んで鬱になってしまったとき、決まって僕はある秋の夕方を思い出す。 10年前のその日――何の気なしに訪れた近所の公園で、僕はあの子と出会った。 やたら可愛いくせに風変わりで、少し頭がおかしいんじゃないかと思える女の子。 あの子を思い出すたびに僕は、未来へ希望を抱き、もう少し頑張ろうという気にさせられる。 それほど、彼女という存在は当時の僕の人生にとって印象深く、鮮明に記憶に残されていた。  10年前――14歳の頃、僕は自殺を決意していた。 理由は、度重なるイジメによる肉体的・精神的苦痛によるものである。 今にして思えば、恥も外聞も捨てて誰かに助けを求めればそんな境遇も変わっていたのかもしれないが、当時の僕はそんな発想すら出てこずに追い込まれ、終いには救いを求めて自殺をしようという結論に至ってしまったのだ。 そうして結論を下したその日――僕は、近所の公園のベンチに腰掛けてどのように死のうかを考え続けていた。 叶うなら、可能な限り人に迷惑をかけないでいて、できれば痛みをあまり感じない死に方がよかったが、そんな自殺方法はそうそうあるものじゃない。 かといって、自殺しないとまたあの地獄の日々が始まってしまう。 そんなことを考えながら、そのまま何の気なしに公園の入り口を見ると――僕は、そこに一人の女の子が立っていることに気付いた。 「……!!」 その子を見た瞬間、僕は目を見開いた。 なぜなら、そこに立っていた子は――どこか、一般人とは違うオーラを纏っていたからである。 なんというか、言葉で説明するのは難しいのだが――どこか寂しげで、諦念しているようにも見え――憂いを帯びた超然とした雰囲気を醸し出している、とでも言おうか。 そんな女性が、公園の入り口で腰に手を当てて仁王立ちしている。 その様子がなぜか気になって、ひたすら彼女を眺め続けていると――やがて彼女は疲れたような顔で僕の座っているベンチに近づいてきた。 「……っ!」 そのまま彼女は、僕の隣――同じベンチに腰掛けると、疲れたように天を仰ぐ。 僕は、心の中で自問自答を幾度か繰り返した末に、結局は好奇心を抑えきれず、意を決して話しかけてみることにした。 「あ、あのっ」 思わず緊張で声が裏返ってしまった。 僕は赤面しつつ、咳払いをして声を整える。 「……ひ、暇そうですね」 「……そう見える?」 彼女はこちらを向いてすぐ返事をしてくれた。 心地よい、透明感のある爽やかな声だ。 「え、ええ……。入り口から、一目散にこのベンチに来ましたけど、どうかしたんですか?」 「……別に。ただ、ちょっと疲れたから一休みしているだけよ」 「疲れた?」 「ええ。なんだか、もう全てがどうでもいいやーってなっちゃって」 「あ……そういうの、僕も少し、わかります」 「…へぇ、そうなの? 無理に私に話を合わせなくてもいいのよ?」 彼女は挑戦するような目で僕を見てくる。 少しムッとした僕は、敬語を使うことも忘れて唇を尖らせた。 「別に話を合わせるとか、そういうのじゃないよ。ただ、偶然僕も同じ気持ちだったから」 「へぇ……」 彼女は少し驚いたように目を見開くと、興味深そうなモノを見るかのような目で僕を見てきた。 「貴方、面白いわね。名前はなんていうの?」 「か、上村一希(かみむらかずき)」 「一希くんか。いい名前ね。じゃあ、そういう貴方……一希くんは、なんで全てがどうでもよくなってるの?」 「……それは――まぁ、簡単に言うなら、学校でイジメを受けててね。もう耐えるのも疲れたし、全てがどうでもよくなって自殺しようと考えていたのさ」 「へぇ。それはまた……初対面なのに、いきなりディープな話をするのね」 「初対面だからだよ。ここで関係がこじれても、僕とあなたは二度と会うことがないだろうから気が楽だし。それに、こう言ったら変かもしれないけれど……あなたを一目見た瞬間、何か、特別な雰囲気を感じたから。この公園にいる誰よりも、僕に近い人のような、それでいて、どこか超然としているような……って、自分でも何言ってるのかよくわからないけど……とにかくそんな気がしたから、言ってみる気になったんだ」 「…………そう。特別な雰囲気、ね……。そっか。君も、いろいろ抱えてるんだね」 「君……も? あなたも、何か抱えてるっていうの?」 と、そこで初めて、僕は彼女のことを何も知らないことに気付いた。 「そういえば、僕の名前は言ったのに、君の名前を聞いてないな。よかったら名前を教えてよ」 「名前……か。ふふ、いいわ。気分もいいし、教えてあげる。私の名前は『R2-PZ』って言うのよ」 「あーる……つー?」 僕は、戸惑いながら言葉を返す。 すると、彼女は大真面目だとでも言うように真剣な表情で頷き返した。 「そう。日本語で発音するなら、アールツーピーゼットってことになるわね。それが私の名前なの」 「えっ、と……」 僕が混乱の極みに達しようとしていた時、彼女はふっと笑って表情を緩めた。 「ふふっ。言葉が足りなかったわね。じゃあ、今から少し、面白い話をしてあげましょうか。実は私は、未来からここに来たのよ」 「はぁ? み、未来!?」 「そう。正確には、今から約200年後……2230年の未来から、ここへタイムスリップをして来たの」 「タイム……スリップ?」 僕は訝しげに目を眇める。 「ええ。ふふ、その顔は、信じてないわね。まあ、当然といえば当然だけど。いきなりこんなことを言われちゃ、まず私の頭を疑うわよね。でもとりあえず今は、最後まで私の話を聞いてくれない? 今から言うことは、適当な作り話とでも思ってくれていいから」 「……わかった」 いろいろと納得いかないことはあったものの、ひとまず僕は頷いておく。 「ありがとう。じゃあ、話を続けるわね。私がいる2200年代では、人類は宇宙人に支配されているの。私たちのいる時代から遡ること60年前――2140年頃、地球から10億光年近く離れた星の一つ、ロイ星と呼ばれる惑星から、未知の生命体がやってきた。彼らはロイ星人と名乗り、地球を武力で支配する目的のために来たのよ。奴らの科学力は人類のあらゆる武器や兵器をもってしても対抗はできず、人類側は完敗した。そうして、地球は晴れて彼らの植民地となったの」 「植民地……ってことは、人類はそいつらの奴隷にされたってこと?」 「ええ。いわば家畜と同様の扱いよ。彼らの娯楽のために虐殺されることもあれば、ペットとして飼われることもある。人権なんてないに等しかったわ」 「……へぇ。それは、随分と大変な事態だね」 「でしょ? そうして私たちには全員、名前をなくされ、記号を使ったコードネームを割り当てられた。さっき言ったのもソレよ。名前というよりは、識別番号のようなものね」 「ふーん……じゃあなんで君はここに来たの? そのロイ星人とやらは、タイムマシンでも持っていたっていう訳?」 「まぁ、端的に言うとそうね。私は、今や人類でも数少ないレジスタンスの一員なの。ロイ星人を排斥し、人類の尊厳と領土を取り戻そうと戦っている団体に所属しているわ」 「ふーん。そりゃ、またドラマチックな設定だね」 興味なさそうに首を捻ると、彼女ももっともだというように自嘲してみせた。 「ふふっ、そうよね。確かに、自分でもドラマチックな人生を歩んでいると思うわ。私はそのレジスタンスに生まれ、彼らに対抗する術を探し続けた。とはいえ、科学力や技術力には雲泥の差がある以上、私たちに反逆の手立てはないに等しい。そこで、私たちは彼らの持つタイムマシンを乗っ取るという計画を立てたの」 「タイムマシンを……乗っ取る?」 「ええ。彼らロイ星人は、その科学力を駆使して、タイムマシン――時間旅行を行う機械を発明することに成功していた。もっとも、未来には行けず、まだ過去にしか戻れないという欠陥品らしいけどね。でも、私たちからすればそれで充分だった。過去にさえ行ければ、未来を変えることができるからね。そうして、作戦は決行された。レジスタンスから100人の精鋭が集められ、ロイ星人の要所に攻撃を仕掛けた。そんな中、唯一私だけが、その内の一つを乗っ取って、ここまで逃げてくることに成功したの」 「何か、途方もない話だね。スケールがデカすぎて、僕にはよくわからないけど……なんで、この時代に来たの? 過去を変えたいなら、そのロイ星人が来るところからやり直せばよかったんじゃない?」 「私だってそうしたかったけど、仕方ないじゃない。タイムマシンは、かなり厳重に管理されてたの。おまけに、奴らから追われていたから、詳しく時間を指定する暇もなく過去に飛ぶしかなかったのよ」 「ふーん。まるでターミネーター2みたいな話だね。……それで、結局、君はどうしたいの?」 「……私は、協力者を作りたいの」 「協力者?」 「未来を導く担い手とでも言い変えればいいわ。つまり、私たちの時代にロイ星人に支配されない為に、この時代の人間にやってほしいことがあるのよ。それを行ってもらう、この時代の協力者を作ることが私の目的なの」 「へぇ。ちなみにそのやってほしいことってのは何なの?」 「それを説明するには、まずロイ星人がなぜ地球という惑星を見つけられたかを説明する必要があるわね。ロイ星人が地球を見つけられた大きな理由は、人類の宇宙進出によるものなの。火星に移住する計画だとか、宇宙ステーションを作る計画だとか、この時代でも漠然とは存在しているでしょう? その計画がいよいよ実行に移されて、人類が宇宙で頻繁に行動するようになった。その痕跡を奴らに察知され、彼らはここに侵攻しようと思い立ったみたいなの」 「つまり、現代の宇宙開発をやめさせれば奴らも地球侵略に赴かなくなるってこと? 「わかりやすく言えば、そうね。そして……叶うなら、その役目をあなたにお願いしたいと思ってる」 彼女は真剣な顔でそう告げる。僕は、その様子を見ながら内心で溜息をついた。 「……あのさ。まず言っとくけど、僕は君の話をこれっぽっちも信用していない。が、まぁ百歩譲って君の言ってることが事実だとしよう。そうだとしても、僕に一体何ができるって言うんだ? 僕は、ごくごく平凡の中学生だよ? そんな僕に、人類の宇宙進出を止められることなんてできると思うかい? 頼む相手を間違えてるよ、君は。本当にそういうことを実行したいんなら、政治家にでも頼むべきだ」 「……そうね。あなたの言う通りなのかもしれない。でも、この時代に降り立った私が、時の権力者である人間にそうおいそれと会えるはずないでしょう? 仮に会えたところで、一希くんが言った通り、妄言扱いされるだけだろうしね。それに――影響力が強い人間は、当然ロイ星人もタイムマシンを使ってマークしているはず。だったら、彼らがノーマークの人間に私の意思を託す方が、勝算は高いと判断したの」 「だからって、なんで僕に……」 「それは、藁にも縋るって思いからよ」 彼女は間髪いれずにそう返答した。 「世界は宇宙人に支配される。こんな荒唐無稽な話、信じてくれないどころか、普通の人はここまで聞いてくれすらしないわ。事実、今まで何人かのこの時代の人と話したけど、皆、私の言うことを聞くだけで去って行った。まぁ、考えてみれば当然よね。私も、逆の立場だったら、いきなりこんな話をされたって信じないもの。変なことを妄信してる、頭のおかしい人なんじゃないかと思って、距離を置く――それが、普通の考え方。そんなことを繰り返す内に、疲れきって…全てがどうでもよくなった。もう誰でもいい。私の言うことを信じていなくても構わないから、少しでも協力してくれる人はいないか。そんなことを思って、君にもこの話を告げてみたのよ」 「それは……」 僕は、先ほどの彼女の顔を思い浮かべる。 どこか超然とした、それでいて思いつめたような顔。 あれは、自分の話がどこにいっても理解されない憂いを含んだものだったのか。 「ねぇ、お願い。騙されたと思って、私とここで約束をしてくれない? いつか必ず、人類の宇宙進出を止めてくれるって。いじめになんて負けずにがむしゃらに生きて、いつか私たちをロイ星人の支配から救ってくれるって」 「…………」 僕は思わず押し黙ってしまう。 「……仮に――仮にだけど、君の言っていることを信じたとしよう。でも、僕は、漫画に出てくるような主人公とは違うんだ。人類の宇宙進出を止めるなんて、そんな大それたことができると思うかい? とてもじゃないけど、そんな約束なんて……」 「大丈夫よ。そんなに革新的なことをする必要はない。一希くんは、『バタフライ・エフェクト』って言葉を知ってる? 蝶の羽ばたきが巡り巡って気象に影響を及ぼす現象のことを指す言葉なんだけど、その言葉の通り、どんな小さなことでも行動してみるだけで、未来は大きく変わったりするものなのよ。だから…お願い」 彼女はぐっと顔を近づけてくると、両手で僕の手を握る。 「……急にこんなことを言われて、困惑していると思う。でも、この話は紛れもない真実なの。だから――一希くん、私を信じてくれない?」 彼女は目に涙を浮かべ、懇願するように僕の両手を握ってきた。 「お願い、一希くん……」 「…………」 この女、よくもまぁこんな設定を次々思いつくものだ。 オマケに、涙目になる迫真の演技までして……。 そんなことを思いながらも、僕は一向に足を動かそうとはしなかった。 おそらく――この時の僕は少し、センチメンタルな気分になっていたのだと思う。 学校でいじめられ、人生を悲観し自殺を決意した。 そんな中――例えそれが嘘であろうと、『僕』という存在を、頼ってくれた人。 目的があるとはいえ――いじめられてどこにも居場所がない僕を、唯一必要としてくれた。 ならば――。 僕は、彼女に応えてみたい。 例えこの話が嘘でも、それに乗ってあげるくらいの優しさをお礼に見せてあげたい。 「……いいよ」 気付けば、僕は口を開いていた。 「約束だ。君の言っていることが真実なら……僕は、必ず宇宙に進出する人類を止めたい。いや、止めてみせる。これから、その為に僕は生きるよ」 「……ホント?」 「ああ」 「じゃあ、改めてお願いする。人類が宇宙に進出しようとするのを、何とか止めて。無責任なことを言っているとは思っているし、どうすればいいのかわからない、漠然としたお願いだとも思う。でも、一希くんが何かしら動いてくれれば――それがバタフライ・エフェクトのきっかけとなり、少しずつ未来が変わっていくかもしれない。そうしていつか、その改変された未来が現実になり、私たちのいる未来も救われるかもしれない。私は…それを頼りに、これから生きていくから」 「……ん、わかった。なんとか頑張って見るよ」 「ふふっ、ありがとう。私、一希くんと出会えてよかった。ほんの20分くらいの出会いだけど……私、忘れない。今日のこと、絶対、忘れないから」 「……うん」 「それじゃあ、お別れね」 そう言って、彼女はその場から立ち上がり、すたすたと歩き去っていく。 僕はその背中を見つめ続けながら、ポツリと呟いた。 「ロイ星人、か……」 今から約200年後、彼らに人類が支配される。 なんとも想像し難い未来だ。 いや、SF映画や漫画、小説の中ではありふれた――ある意味ポピュラーな未来とも言えるのかもしれない。 「まぁ…せっかくの約束だ。僕にできる範囲のことで、行動してみるかな」 嘘ならばそれで良し。真実ならそれも良し。 当たるも八卦、当たらぬも八卦。 何の意味もないと思っていた僕の人生にできた唯一の約束事。 ならば、この約束を守るよう努力してやるのもまた一興だろう。 「よしっ!」 僕は、自殺しようと考えていた己を振り払うように、気合を入れるべく両頬を思いっきり叩く。 そのまま、彼女との約束を果たすにはどうすべきかを考えつつ、帰宅の徒についた……。 「ふぅ……今日もアクセス数は0か」 自宅に帰ると、僕はパソコンを立ち上げて自分が作ったホームページを見つめる。 そこには、「人類がこのまま宇宙開発を進めていけば、やがて宇宙人であるロイ星人に支配される!」という文句が大々的に表示されていた。 あれから、10年がたった。 僕はあの後、彼女の言うことを信じてひたすら宇宙開発を人類が止めるように手を尽くしてきた。 とはいえ、平凡な一市民である僕にできることと言えば微々たるもので、時にはチラシを作り、時には路上で演説し、時にはSF系の都市伝説を語るオフ会に参加し、人類が宇宙進出をすることの愚を説いたくらいだ。 そして、最終的にはこのようなwebサイトを作り、大衆に向けて訴えかけるという行為に至ったというワケだ。 あれから、イジメに耐えながらなんとか中学を卒業し、別の高校に入った後は、それからはいじめられることもなくごくごく普通の人生を歩むことに成功していた。 無論、彼女のことを忘れたワケじゃない。 今日のように仕事で凡ミスをしてしまい、部下の前で上司に怒られるなんて辛く悲しいことがあった時は、決まってあの話を思い出す。 自分が市井の一市民ではなく、未来を担う希望の一端であると信じる為に。 そして、彼女との約束がある限り、僕には生き続ける義務があるのだと再確認する為に。 中学生の視野狭窄なあの時、彼女と話さなければ、僕は確実にそのまま自殺していただろう。 後の人生にはまだまだ楽しいことがありあまっていたのに、それを知ることもなく、一時の感情に負けて死を選んでいた。 そう思えば、彼女の為に活動することを苦とは思わない。 例えあの話が嘘だとしても、彼女との約束を守り続けているという想い自体が、明日への原動力になる。 だからこうして辛いことがあった時は、決まって僕は彼女のことを思い出し、自作のホームページを開きながら、独り自分を慰め続けた。 それに――。 まだ完全に、彼女の話が嘘だと決まった訳じゃない。 レジスタンスである彼女が、またタイムマシンを使ってこの時代に来て、二人でロイ星人と戦う――そんなドキドキする冒険が始まるのかもしれないじゃないか? 現在、西暦は2019年。 僕が宇宙進出を止める可能性も、彼女と再会できる可能性も――まだまだ無限大に広がっているはずなのだ。 また、この年になって痛感したことが一つある。 それは、人は誰しも、どんな境遇においても自分を愛さずにはいられない生き物だということだ。 どんなにつまらない人生でも、どんなに退屈で平凡な日常を過ごしていても、心のどこかで自分が他より「特別」だと誰よりも信じたがっている。 物語の中の主人公のように、何らかの活躍ができると信じながら自分を慰めずにはいられない生き物なのだ。 だからこそ、僕はあえて、こう思うことにしている。 僕の人生を、ロイ星人の侵略から人類を救う、英雄の物語として例えるなら――さしずめこの10年間は、プロローグなのだ。 全ての物語は、プロローグから始まる。 そして、読者はそのプロローグを見て、これからどんな冒険が始まるのだろうと心躍らせるわけだ。 プロローグで僕は、定番のボーイミーツガールの出会いを遂げた。 僕のプロローグは普通の作品と違い、10年間と長いけど、その分、本編は更に長く、壮大になるはずだ。 だから――。 その時が来るまで、僕は生き、彼女との約束を果たし続けたいと思う。 それが、僕の使命でもあるし、義務と信じているからだ。 そしていつか、謎めいたあの子との再会を果たし、ロイ星人と戦いながら波乱万丈の日々を送り、紆余曲折を経て彼女と恋仲になる―― そんな未来(本編)を、今日も僕は思い描きながら退屈な日々を過ごしていく。
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