再会

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その日は出張の土産を渡すため、友人が勤めるバーの扉を開けた。 季節は急に秋になり、衣替えが間に合っていない薄着の俺。室内の暖かさにホッと安堵した。 「おお、久しぶり」 マスターが上げた手に小さく頭を下げた。ジャズの流れる薄暗い照明の店内を見回すも、目的の友人はいない。 「ヤスは休みだよ」 「っすか。これ、食べてください」 「いつも悪いね」 渡した紙袋の中身を見て、マスターは「今回は上海に行ったの?」と笑顔になった。土産は焼き小籠包と老婆餅。ヤスとマスターの分、二箱ずつ。 「このヌイグルミは?」 マスターは、赤い帽子をかぶった小さなパンダを手に取って俺に見せた。 「それ、章太郎に」 「ウチの孫に?ありがとう」 彼の目元に笑い皺ができるとくすぐったくて、照れ臭い顔を見られないようについ口元を隠してしまった。 「座ってよ、一杯奢るよ」 「あざっす」 俺は遠慮なしにカウンター席に座って、ネクタイを緩めた。 店内には二組のカップルと、カウンター席の隅に一人で座っている同い年くらいの女の客。その彼女が「すみません」とマスターに声を掛けた。 あれ? もしかして。 「根駒!?」 躊躇するより前に、声が出てしまった。 彼女も驚いたように俺を見る。 あの頃真っ直ぐだったセミロングの髪には緩くパーマがかかって、薄く化粧もしてるけど。 ほら、間違いない。 体内の温度が一気に上昇した。 ーー教科書、見せて。 あの日、仏頂面で頼んだ俺の机に、根駒は自分の机を寄せてくれた。コツンと当たった机の振動に心臓が跳ねた。 一緒の教科書を覗き込んで、当たらない程度にくっつけた腕。同じ場所を見ているだけなのに、やけに彼女を近くに感じて顔が熱かった。 高校三年生の秋。 根駒夢乃(ねこまムノ)は俺の初恋の人だった。
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