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根駒は「大丈夫」としきりに言っていたが、「せめて駅まで送る」と、俺は彼女と一緒に店を出た。
街は車のライトとデパートの窓から溢れる光と信号機の三色で、かえって眩しかった。無表情な人とカップルで楽しそうな人の数は6:4くらい。
そんな中、俺たちも「4」の中に入っているように見えるだろうか。
目の前で赤に変わった信号の前で並んで止まる。
「根駒、連絡先教えて」
「ええー?」
嫌そうな顔。俺が怯むと、「冗談」と笑ってスマホを出した。
くっそー、可愛い。顔がにやけそうになるのを、いつかの腹の痛みを思い出して堪える。
差し出された画面の無料通信アプリのQRコードを読み込むと、根駒は俺の顔を覗き込みながらウフフ、と笑った。
「次は食事に誘おうと思ってくれてるのかなぁ」
誘うに決まってんだろ!
とガッつくのはカッコ悪いので、俺は不愉快そうな表情を作った。
「バーカ。職の当てがあるかもしれないから、社長に聞いてみようと思ってるだけだ。良さそうな仕事あったら、連絡してやるから」
根駒の連絡先を保存して心ホカホカな俺は、満足してスマホを内ポケットに入れた。
「……ありがと。どうするか、まだ分からないけど」
小さく呟いたその言葉は、多分本心だ。迷ってるってとこなんだろう。
周りに迷惑掛けるのを気にしている。
俺は鼻で小さく溜め息を吐いた。
「おう。無理すんなよ」
横断歩道が青になる。
根駒にとって、今日、この場所で俺と会ったことを「良かった」と思えたらいいな。
大通りの車の音と、人混み。信号機の音楽。
その中を俺たちは黙々と歩いていたが、根駒がふと足を止めた。
「熊谷くん」
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