根性なしとの決別

2/6
71人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ
根駒は「大丈夫」としきりに言っていたが、「せめて駅まで送る」と、俺は彼女と一緒に店を出た。 街は車のライトとデパートの窓から溢れる光と信号機の三色で、かえって眩しかった。無表情な人とカップルで楽しそうな人の数は6:4くらい。 そんな中、俺たちも「4」の中に入っているように見えるだろうか。 目の前で赤に変わった信号の前で並んで止まる。 「根駒、連絡先教えて」 「ええー?」 嫌そうな顔。俺が怯むと、「冗談」と笑ってスマホを出した。 くっそー、可愛い。顔がにやけそうになるのを、いつかの腹の痛みを思い出して堪える。 差し出された画面の無料通信アプリのQRコードを読み込むと、根駒は俺の顔を覗き込みながらウフフ、と笑った。 「次は食事に誘おうと思ってくれてるのかなぁ」 誘うに決まってんだろ! とガッつくのはカッコ悪いので、俺は不愉快そうな表情を作った。 「バーカ。職の当てがあるかもしれないから、社長に聞いてみようと思ってるだけだ。良さそうな仕事あったら、連絡してやるから」 根駒の連絡先を保存して心ホカホカな俺は、満足してスマホを内ポケットに入れた。 「……ありがと。どうするか、まだ分からないけど」 小さく呟いたその言葉は、多分本心だ。迷ってるってとこなんだろう。 周りに迷惑掛けるのを気にしている。 俺は鼻で小さく溜め息を吐いた。 「おう。無理すんなよ」 横断歩道が青になる。 根駒にとって、今日、この場所で俺と会ったことを「良かった」と思えたらいいな。 大通りの車の音と、人混み。信号機の音楽。 その中を俺たちは黙々と歩いていたが、根駒がふと足を止めた。 「熊谷くん」
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!