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「あなたは優しいのね」
ゴミ出しをした時に不意に声をかけられた。真っ暗闇の空。外灯の明かりに照らされた女性は小柄で着ている衣服は暗闇に同化されている。
「優しくなんて・・・ないわ。こんな時間に塾かしら?心配しているからもう帰りなさい」
綾香がそう優しく声掛けた時、女性は目の前までいた。顔を伏せた一瞬でここまで来たのだろうか?足音一つ聞こえなかった。女性を見て驚く、女性は東洋人形のように色が白く、紫色の瞳に真っ赤な唇は女性自体が人形のように思えてならない。
「買い取ってあげる。そうしたら、お洋服買ってあげられるじゃない」
いつ知ったのだろう初対面のはずなのに、心が読まれているようで、身体が催眠術にでもかかっているように重く自身の力では動かせない。目の前の女性が笑う妖しく、肩についているカラスも赤い目を光らせて。
一歩一歩、そうしていつの間にか部屋へと進んで娘が大事にしている箱を開けている。五体しかないのだ。数えてしまえば娘にばれてしまう。
「苺ちゃんを人形にすればいいじゃない」
(いや、いや、いや・・・)
身動きもとれない操られた身体が一瞬だけ自由になる。綾香は急いで部屋へ向かい寝ている苺を抱きしめながら、追いかけてきた女性に向けて怒気を強めた。
「なんなのよ・・・娘なんて渡さない。人形は売らない・・出ていけ。出なさいよ!!バケモノっつ」
女性は悲しい表情と含み笑いを浮かべ目が覚めた時には消えていた。
♦
「ママ?」
苺はきょとんとした声で綾香を見ていた。髪は乱れ呼吸が荒くなっていたのが落ち着いてくる。カーテンから入る陽光、起き上がった苺は周囲を見て弾けんばかりの笑顔を綾香に向けている。
「わぁ、ありがとう。これルカちゃん人形とお揃いの服だ」
あの不思議な出来事は夢ではなかったようだ。押入れに置いてある箱の中身を確かめて呆然とする。駆け寄ってきた苺が首を傾げ訊ねてくる。
「あれ?ルカちゃん人形全部なくなっている。どうしてなの」
綾香はこう結論付けることにした。バケモノと罵った女性は苺が人形になればいいと近づいてきた。身を挺して我が子を守る姿に心が揺れ動かされたのか?今となってはわからない―――
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