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鮫島がチラシを食い入るように見つめていたのは代々から受け渡された人形を売ろうなど思っていない。職業柄そういう非現実体験の雑誌記者担当だから。
ホラーと呼ばれる怪しげな手紙や投稿などピックアップし、面白いネタは後追い取材を始める。
「【怪奇人形店】の店知りませんか?」
ゴシップ雑誌ミュータント。宇宙人からホラーまで雑食な部類を扱う専門雑誌、部数は少数なら読者も少数なのだが、熱狂的な読者はブログを立ち上げ掲示板を作っている者もいるらしい。
「日本人形と同じ類か?髪が伸びるとか深夜になると女の声がするとか」
編集長は耳に赤ペンを指しながら、訊ね返す。編集長の髪は脂ぎっている。働き方改革の昨今。編集部員は締め切りに追われ徹夜が続く日など数知れず。週何回か休刊日を設けているが、担当記者に休みはない。
「チラシが入ってたんですが、誤植だらけなんですよ。住所も店主の名前も電話番号も抜けているんです。ネットの情報では女としかわからなくて」
「会って直接取材してみろ。SNSには店主と会った人物が書き込んでいるんだろ。なら、会った人物に聞きこむしかないだろ」
返事をして立ち上がる。息子にプレゼントの人形を渡してから一週間が経過している。不可思議体験は今のところない。やっぱりどこかで大げさに伝えただけだろうと思い始めていた。
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