魂やどる戦士は

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 シングルファザーの鮫島はいつも息子の迎えに間に合うように仕事を切り上げている。今日はいつにもまして疲労困憊だった。聞き役に徹していたため肝心なことを聞けず仕舞いで終わったのが原因。 「おとうさん!!」  そんな鮫島だが息子の弾けんばかりの笑みを見ると、疲れも吹き飛ぶ。今日も服を泥だらけにして遊んでいたようだ。ワックスで整えた髪もくたびれている。ランドセルについた土を払い、武からランドセルを受け取り片手に担ぎながら、息子の話を聞きいる。  学校に頼んでギリギリまで教室に残っている武は教科書を立て寝ているのが常だ。教師と二人きりの教室で寝息が聞こえたら怪しまれやしないかと、訊ねたことがある。 「先生だって寝てるよ」 「先生も大変だもんな」  昨今、教師の道を目指そうとする学生が減ってきていると、ニュースや記事などで目にする。武に何かあったらとはと思う反面、気苦労も少しはわかっているので強くは言えないのが現状。鮫島はモンスターにはなりたくはないと考えているからだ。 「先生が寝ている間のことなんだけどね」  そういいながら、片手に握りしめていた人形を見せて笑う。学校におもちゃを持っていたのかと詰め寄ろうとした時、武は真顔で話し続けた。 「じいちゃんの声が聞こえたんだ」  亡くなった親父が話した?まさかと思い何度か聞き返すが武は頷き返し、楽しそうに話す。 「人形に耳を近づかせなければ聞こえなかったんだ・・お洒落になったなとか綺麗な字になったなって。見ていてくれたんだね」    ガオレンジャーレッドから放たれた声はずっと聞いていた祖父の声だったので武は驚きながらも、頷き、ノートで会話をしていたと言う。 □  帰路に着いたとき真っ先に武のノートを見せてくれと鮫島が頼むと、最初はもったいぶって見せずにいた武が仕事のためならと鮫島にも見せてくれた。  国語のノートに書かれた会話は成立していて、亡くなった後に起きた出来事などを武は祖父に伝え、祖父もまた人形の力を借りてよろよろな字で返答文を書いていた。 【じいちゃん、ワックスで髪型変えてんだよ】 【先生に気づかれない程度にな。お父さんよりも素直で優しい子だな。メッキの部分赤いマジックペンで書いてくれてありがとう】  数日前の武の誕生日に行った行為を見ていた人間にしかわからない発言だった。信憑性が増してくる。 【留まらせてもらってるんだよ】 【だれかにたのんだのじいちゃん】 【お父さんがチラシ持ってるだろ?その店主さんだよ】  鮫島は持っていたノートを落としていた。ここ数日の出来事を人形を通じて知っている。武にも行っていないことさえわかっている。これを怪現象と言わずなんと伝えるべきか?  落としたノートを拾い鮫島を心配そうに見つめる武。武に向かって早口に告げていた。 「じいちゃんとまだ話せるんなら書いてほしいことがある」 「お父さんが書けばいいじゃん」  息子に言い忘れていたことに気づき、冷静になれと落ち着かせながら武に教えて聞かせる。 「渡された相手しか話せないんだ。じいちゃんは」  何故だかは聞かず仕舞いなのだが、子供との間にだけ成立する不思議な体験だと聞かされていた。大人になった鮫島は一度、ガオレンジャーに話しかけたりチラシの白紙の部分に文字を書いてみたりしたが、魂との会話はなく何の不可思議体験もしてこなかった。  武は耳元の髪を指先に絡ませながら、シャーペン片手に目線で聞いてきた。鮫島は息子の隣に座り聞きたいことを伝えていた。 「店主さんの名前は?」と。
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