つぶらな目をしたくまのぬいぐるみには

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 姉夫婦の仲がぎくしゃくしていることは、毎日のように電話やメールを打ってくる姉の内容でだいたい知っている。  僕の姉は昔から気が強く頑固で融通が利かない、なんでも言う通りにならなければ気が済まない性格。僕の義兄にあたる正文(まさふみ)さんは対照的な性格でおっとりしている。なにをするにもゆっくりでそんな2人が交際結婚まで進むなど僕も家族も思ってもいなかったこと。  ぎくしゃくの原因は子育て方針の違いから。未美の意見を第一に考える正文さん。習い事など積極的に学をつけようと言う姉。 『未美の気持ちが一番大事だってわかってるんだけどね。でも、未美の将来のことを思えば習い事を増やすのだっていいことだと思わない?』  電話で姉が僕に問いかけた質問にすぐ答えられなかった僕。未美の姿を最後に見たのが去年の年末、実家に帰省していた頃の話。 ♦  正文さんと未美はなんでも話せる仲なのだと教えてくれた未美。台所にいる姉を見てつらそうな視線を向けながら、 『ママの言うことはわかってるよ。未美のこと考えてくれてることも』  茶色い熊の人形を胸にギュッと抱きしめて、ぼくにポツリと零した言葉。 『ママとパパね・・・未美のことでケンカすることが多くなったの。2人とも大好きだけど、ケンカをするママたちは嫌い』  悲しそうに言う姪の言葉にただ優しく、頭を撫でてあげることしか出来ない。その頃から始まっていたんだと思う、人形に気持ちをぶつけることで和らげていたのかもしれない。子供心に傷ついてでも、話せる相手がいなくて苦しくて、人形相手に話をしてそれでも感情が抑えられなくなって。  一〇三号室に戻り寝室を見て、唖然とした。どこからハサミを手に入れたのだろうか?子供用の小さなハサミでは人形を切り裂くことなんて出来ない。  くまの人形の側に置かれていたのは調理用に使うハサミ。ハサミの間には綿がたくさんついていた。
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