つぶらな目をしたくまのぬいぐるみには

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 未美が喜んでいる声がぼんやりと聞こえる。僕じゃない別のものの魂が入っているのに気づかない。遠ざかる僕の身体は姪の未美に新しい熊の人形を見せて笑っている。 「直したよ未美」 「ありがとうおじさん!!あ、お母さん・・・お父さんも」  姉夫婦が手を繋ぎ近づいてくる。二人とも晴れやかな顔をしている。わだかまりは解消されたようだ。 「良かったわね。あなた以外みんな元通りよ」  女性に抱きしめられる形でその光景を見つめることしか出来ない。言葉が通じるわけも話せるわけでもない。だが、女性は心の内を読み取れるようだ。 「あなたが気づいていないだけ。本当は面倒だったんでしょう」  蘇る記憶―――  未美を預かったあの日、未美を寝かしつけて未美の荷物を片付けていた。大きな人形が邪魔だと舌打ちしていた僕。  気が狂ったように調理用ハサミ片手に切り刻む。 じょきじょき、じょきじょき・・・・ 『定職につけだって・・・ふざけんな!!結婚しろその前に相手を見つけろ。姉貴を見たら結婚する気も失せるわ』  綿が舞う、その一瞬で溜まっていたものが軽くなっていて。気づいたら取り返しのつかないほどに顔を真っ二つに裂けるまで奥深くにハサミを入れ続けていた。バイト先の失敗や家庭の小言なにもかも、人形にあたることで解消された。異様な高揚感、湧いてくる後悔。 「あなたたちは同じなのね。あの子もまた同じことをするわ」  女性は未美の方を振り向いて呟く、小さい子供がそんなと思った感情を読み取られ。微笑を浮かべる。 「人形の気持ちなんてわからないからするんでしょう?」  何も言えなくなっていた。女性に連れられるままあの恐ろしい店名の店へとたどり着く。郊外から離れた森林が辺りに密集している場所にある店は。テナント店とは違っていた。  蔦が絡み合う洋風づくりの一軒家。黒い門扉に黒い三角瓦屋根、外壁までも暗いねずみ色。店名など書かれていない、表札も見当たらない。 「ようこそメイのお城へ」  カツカツとヒールを鳴らし、鉄製の黒い玄関扉を開ける。電気を点けシャンデリアが輝く下に隙間なく置かれた人形たちを見て震え上がる。 (僕を戻してくれ・・・お願いします・・なぁ、頼むよ)  長い髪の毛を耳元に引っかけながら小さく首を傾げてみせる。くるりと身体が回転し女性と向き合う形になる。 「無理よ・・・あなたの魂を取引したの。あなたがこのチラシを手にしたその瞬間から契約は交わされていた。どちらにしてもわたしに会うつもりだったんじゃない?」 「魂同士の契約なんだグワァァ・・・お前も入れ替えの器が見つかるといいな。グワァァ」  女性が座った椅子に置いてある鳥人形が壊れた声で鳴く。カラスの人形は赤目を光らせグワァァと鳴いて妖しい笑いを館内に響かせていた。
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