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着せ替え人形に憧れて
綺麗な洋風の家は白く、見開きで家の内部が覗ける。女の子の家族はモデル並みの容姿をした家族。
「お着替えしましょうね」
昔からある人形でも今は容姿は様変わりしているなと、八木綾香は娘を見ながら感じていた。
一人っ子の娘はドールハウス付きの人形を飽きずに遊んでくれている。それだけでありがたいと思う。最近の人形は水につけるだけで色が変わり、乾いてくると元の髪色に戻る不思議さも娘が飽きない理由の一つ、もう一つは。
「ママ、苺も洋服たくさん持ちたいなぁ」
小学校に上がってから娘の苺は、人形の遊びをしつつ服を買ってほしいと上目使いに頼んでくるようになった。
「苺の服はまだまだ着れるから我慢してね」
苺が手に持っている人形が衣装持ちなのが影響している。みなワンピースなのだがラメ付きだったりフリル付き、水玉模様など可愛らしいワンピース五着なのだ。
「なんで?ルカちゃんはたくさんお洋服持っているのに、苺はお古の服なの」
お古なんて言葉どこで覚えてきたのだろう?学校に通って友達が出来ても遊びに呼ばないのは、綾香が忙しいからだとわかっている。
学校帰りの学童施設にも入れる余裕も習い事を通わせるお金もない、市営団地で娘と二人暮らし。ハウス付き人形は去年の誕生日にプレゼントしたものだ。飽きるのも時間の問題かと思っていたが、娘の興味は洋服へと向いている。なんとか興味を逸らさねば。
「ルカちゃんだってこの洋服だけでしょう?苺はお古でも服が増えているんだからいいじゃない」
苦しい言い訳だってことはわかっている。苺は俯いて片手に握りしめていたルカちゃん人形を見つめ、人形に向かって語り掛ける。
「ルカちゃんだって同じ服は嫌って言ってるよ。そうだよね?」
握りしめた人形を綾香に見せながら上下に動かしてみせる。人形に語り掛けた気持ちが今の苺の気持ちなんだ。
リサイクルショップで安値で売られている古着よりも新しい洋服が欲しいと願っている。安売りをする曜日に向かっても娘の苺が着たい服は売り切れている。歩き回って洋服店を回って安値の服屋を訪ね歩く日は決まって苺は疲れ果て寝てしまうのだ。
「じゃあ、苺の欲しい服ってなに?」
ため息交じりに聞いてみる。人差し指を顎に当て考える苺。そうしていつも綾香の顔色を見る。空気で言わせまいとしている綾香。この間に耐え切れず、苺は泣きそうな張り詰めた笑顔を向けて言う。
「やっぱりないよ」
そう返ってくるってわかっている。娘の苺は我慢強い子だと我儘なんて言わない子だと。でも、娘に言わせていること自体に胸が痛んでならない。
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