着せ替え人形に憧れて

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 朝食前にいつも、玄関扉にある郵便受けを確認する。新聞などとっていない八木家には投函された広告の方が多い。どれも近くに建てられたジム勧誘や習い事のお知らせ等々が常なのだが・・・  ジリジリ・・・ジリジリ・・・  寝室に置いてある目覚まし時計が鳴る。娘が起きてくる物音からの大声。 「ママ、焦げてる!!」  トースターに入れていた食パンが香ばしい匂いを漂わせていた。苺に指摘されなければずっと見入っていたかもしれない。 「ごめん、ありがとう苺」  広告用紙をテーブルに置き娘と共に身支度を整える。朝食は焼け焦げたパンを綾香が少しだけ焦げたのを苺に食べさせながら、聞いてみる。 「ねぇ、苺。古い人形ってあったよね」  食パンのくずを口元につけ綾香を見やる苺。問われている意味がわかったのだろうか?ぶんぶんと左右に首を振り全否定。 「ないもん。ルカちゃん人形以外ないもん・・・みんな大事なものなの」  【だいじなはこ】の中に人形を仕舞ってある。ルカちゃん人形が何体も埋め尽くされている箱。毎年の誕生日プレゼントにルカちゃん人形を買い与えたまったルカちゃん人形たち。 「苺がいない間にルカちゃん売ったらママと話さないから!!」  苺は言いながら乱暴に扉を閉めていく、綾香の行動がわかっているから吐き捨てたセリフ。いつも苺は見ていた綾香が使わなくなったものをリサイクルショップに持っていく様子を。  だから、娘は感じ取ったのだ。だいじなはこにあるルカちゃん人形が売られてしまうということを。
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