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雨上がり。
陽射しが雲間から覗き、雨露に濡れた全てのものを煌めかせる幻想的な時間。
蝋燭が燃え尽きる瞬間に、ただ一時、炎を大きく揺らめかして束の間の輝きを放つが如き美しさ。その持続が世界を染めて。
「わたしね、物心付いた頃からベッドの上だったの」
腕の中、彼女が囁く。
言葉を証明する様に細い体。
昼と夜のあわいの時間に、紅く染まる筈の肌色も青白く生気は薄くて。
清涼な空気の冷たさが、無情にも君の微かな熱を奪って行く。
「ふふっ。恋ができるとは思わなかったな」
耳朶を柔らかにくすぐる声と、温もりを感じない肌。
病弱な彼女は、自身の身体を温める熱を作り出す力が弱いのだろう。
せめて僕の熱で暖められないかと、抱き締める腕にそっと力を込める。
なのに、出会えた喜びに僕の背を抱いていた手は力なく滑り落ちて行く。
それでも崩れそうな身体と意識を支え、君は必死に自身の手を握り締めて震える足で立って見せる。まるで僕に、全てを預けるのは申し訳ないとばかりに。
健気だと感じた。愛すべき一つの命が僕の腕に確かに収まっているのだから。
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