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「ここの伝説、知っている」
不意の問い掛けに笑みが零れる。
伝説なんて大仰だと。
恋を覚えた少女達の間に囁かれ、受け継がれて来た、おまじないの如きお伽噺に過ぎないそれ。
僕達のシチュエーションは、正にそれだ。
今、ここで、君を抱き締めている姿は。
「黄昏時に抱き合う男女の幽霊を見たら、恋が破れるって話だね」
「逆よ。朝焼けに染まる男女の姿を見たら、恋が叶うの」
一瞬の事だったが、驚きに眼を見開いた。そんな真逆の伝説も生まれていたのかと。
「あまりにも悲しい伝説だから、優しい誰かの心が紡ぎ出してくれたのかもね」
「そうか、そっちの方が良いね。素敵な話だ」
物語りは夢語り。
希望を乗せ、想いを交え、誰もが叶えられない夢を託すもの。
「うん」
静かに君が笑っているのが分かるけれど、僕はその顔を直視する事が出来ない。
今となっては、切望したものを味わう事に夢中で。
時が過ぎ去る程に、重みをなくし、気配をなくし、薄れて行く君の命。
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