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本当の恋なんて知っちゃいけない。
憧れるだけならば甘美に過ぎない感情が、本物となれば恋敵を出し抜く狡さや自分を偽るあざとさ、恋する相手を思い通りの存在としたい支配の欲求に囚われ、憎しみや怒りの醜さを持つのが人の常だから。
そんなものは必要ない。綺麗なままで、憧れを、幻想を抱き締めていて。
僕が今、君を抱き締め味わう様に。
「子供、なんだろうな。わたし……」
揺らめく視界。僕を捉える瞳にはもう何ものも映らない。
僕は人ではないから、姿を何かに写す事は出来ない存在だから。
水の流れに阻まれて、この橋の上から動けない憐れな存在。夢の中、僕を認める者だけに捉えられる不可思議なる化生。
君の命を、無垢なる心を啜り、生き永らえる人ならざるもの。
最後の一啜り、最も甘美な君の命の最期の一滴を味わう為に、僕は強く、強く、その華奢な身体を抱き締める。
僕にだけ向けられる無償の愛を、命を味わい尽くす為に。
吐息が漏れた。
一度硬直した君の身体が弛緩し、ぐらりと揺れた。
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