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「ボウヤ。この森には入っちゃいけないよ。ここには悪魔がいるんだから」
今まさに入ろうとした、奥の見えない森。その手前で、僕は知らないバーサンに声をかけられた。
気のせいか。今、シワの深いその口から、似つかわしくないワードが飛び出したような。
「あんた見かけない顔だね……もしかして、あの海沿いの、新築の家の子かい?」
「は、はい、そうです……ちょうど今日、この街に引っ越してきました。茅原心です」
「そうかい……心。悪いことは言わない。この森にだけは近づくんじゃないよ」
一瞬だけ力を和らげた濁りのある瞳は、すぐに硬い光を引き戻した。
僕の脳が引っ張り起こしたのは、クリアしたばかりのゲームの映像。
ラスボスだった。気まぐれに人間を食い殺す残酷な悪者だった。頭から二本の角を生やし、たくましい背中にはどす黒い二つの翼を背負い、全身から禍々しい闇のオーラを吐き出す、この世のどこを探してもいないあの異形は。
現実と作り物とを、ひどくあやふやな線で結びつける。
「ここには……悪魔が、いるから……?」
「そうさ。罪悪感なんかこれっぽっちもないあの悪魔は、気に入らない子どもを喰うのが何より大好きなんだ……」
ゆっくり、ねっとり、しわくちゃな口が放つ警告。眉と眉の間に力がこもると、陰気な顔は、更にくしゃくしゃに歪んだ。
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