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目をゆっくりと開ける。
ぐんと伸び、私を見下ろすようにしている木々の隙間から流れるまぶしい光に、パチパチとまばたきをする。どうやら私は仰向けに寝転がっているらしいと気が付いて、肘をついて上体を起こした。
「ぁ、気ぃ付いたか?」
私が体を起こすと目に飛び込んできたのは、私の顔をのぞきこむようにしている若い男の人だった。
「……はい。」
その男の人は白い服を着て白い革靴。赤く大きな紅葉のような形のイヤリングかピアスを耳に着けていて、白い肌に切れ長の目。細身の体躯で足もかなり長そうだった。白い髪……白髪とは違い、角度によっては銀色とも見える髪の毛は、日の光を反射していてまぶしかった。
私が年の頃ならば、ぽっと見とれてしまいそうな見目の男だけれど、私にはこんな知り合いはいない。
「あの、失礼ですが……どちらさまですか? 知らない人について行ってはいけないって、学校にも親からも言われているのですが……。」
若そうだからといって油断ならない。
もしかしたら誘拐犯とか、子どもが好きな、危ない変態さんである可能性だってある。そう思った私は、後ずさる様にして距離を取った。
「なんかおまえ、落ち着いてんな。いくつ? 名前は?」
私が聞いたのに、逆に質問で返してくるあたりがすごく怪しい。もし子どもが好きな人だった場合のことを考えると本当の年齢を言うのは危ない。けれど私は背も低くて小さめだし。何より背中に背負っているのはランドセル。中学生です、なんてうそはおそらく無理があるのだろう。
「おーい。大丈夫か? もしかしてどっか痛い? どっかぶつけたか?」
考え込んでいた私に男がそう声をかけてきた。
「いえ、大丈夫です。六年生です、今。十二歳。名前は沙耶と申します。」
――うそ、だけど。
「へぇ……今どきの子はこんなに落ち着いてんだなぁ。」
と、感心したような表情で私を見つめてくる男の人に、私は、そんなことないという意味を込めて首を横に振った。
「……私はこたえました。あなたは?」
とにかくこの男が誰であるかをはっきりさせなければいけない。
私は、男の真黒い目をまっすぐに見つめて、問いかけた。
すると男は、自分の右手の人差し指を唇に当て、目を細めた。
「内緒だぞ? 俺は――。」
内緒なんてますます怪しい。
やっぱり変な人なのかもしれないと思った私は、いつでも走って逃げることが出来るようにと、右の足を少し後ろに引いた。ランドセルの背負いベルトを両手でぎゅっと握りしめて、男から目を離さなかった。
「――俺は……そうだな、天狗様だ。」
誰にも言うなよ? そう言って、眦のしわをますます深めた男の顔の色っぽさと言ったら、あり得ないほどだった。
まだ小学生。
そんな私の胸の奥に、ビュッと大きな風が吹き荒れたのだ。
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