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つくにしては下手過ぎるうそ。
今とき、小学生でも――いや、幼稚園児だって、はいそうですかとは素直に信じることなどできないような、うそ。
「……そうですか。では、天狗様。お気をつけてお帰りください。」
私は、一度お辞儀をし、くるりと後ろを向いた。
「あー! 待てって! 言ったろ? ちょっと付き合えって。」
さっさとこの場から逃げ出そうとした私のランドセルは、天狗様によって捕らえられてしまった。力がかかった背後のランドセル。それにバランスを崩しそうになり、私は後ろに倒れかけた。
「あぶないじゃないですか……ぁっ!?」
と、大声で言おうとした私の体は宙に浮いた。
地面から離れ、急に心もとなくなった足元に両腕を振って抗った。
――転んじゃう……!
と、思った私は思い切り両目をつむった。
「……ぇ?」
目を開けて、恐る恐る顔を上げると、逆光で暗く染まった男の顔が見えた。
「飛んでみたくねぇか? 空。」
男はそう言って、左目をつむった。
私の宙に浮いた足とは裏腹に背中は何かに支えられていた。
まるでお姫様のような体勢で抱かれているのだと気が付いたときには、男の背後に、カラスの様な大きな羽根が開いていた。
「……ほんとに、天狗なの?」
日光を遮る大きな翼から、抜け落ちた羽根がひらりと数枚、舞い落ちた。
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