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ノールオリゾン国になったこの地に、納税の義務の発布が行われた。
それは、シュヴァルツ王国の時よりも、かなり重いものだった。
「これじゃ、家計は苦しいわねえ」
普通の婦人――ミーアは財布を見るや、ため息を吐くしか無い。
夫は先の戦で先立たれ、息子のラルフは無事帰ってきたが、職は失った。
「まあ、仕方ない。エレン姫様が無事なだけでも、良かったわよ」
ミーアはそう言い、買い物が終わったあと、ラルフがいる鍛冶屋――レオンの元へ向かった。
「ジュリア、それは本当なのか?」
「占い師で予言者のエルマが言ってたわ。シュヴァルツ王国は復活するわ」
ミーアがそこに着くと、ラルフの幼なじみの情報屋――ジュリアの姿があった。
久しぶりに見たジュリアは、とても綺麗になっていた。
「俺達が生きている間に、復活すれば良いのだがな」
「じゃねえと、ラルフは無職だしな」
「それを言うな。今職を探している最中だ」
「それにしても、一人足りないわね」
そう、いつものメンバーの中に一人いないのだ。
彼――アレックの姿が。
「あー、アレックなら、今逃亡中って感じだぜ」
「噂では、機械人形を連れ国外に逃げたと言っている」
「えー、大丈夫なの? アレック……」
「大丈夫だと思う。あの男は不死身だ。それに、しっかりした技師――ニコラが側にいる」
「なら、安心だわね」
「まあ、あのアレックなら大丈夫でしょう。でも、不可解な事があるのよ」
と、ジュリアは一息吐いて、告げる。
その表情は深刻な物だった。
「エルマが、行方不明なのよね」
「えー、マジで。何でだよ」
「あのエルマの言葉は効力があるから、ノールオリゾン国側には不利な事を告げられれば――政を行いにくくなる、という訳だろうか」
「あー、難しい話分かんねえ! 分かんねえ!」
「レオンのおつむは五歳児だからね」
「そんなに低くねえ、せめて、十五歳にしてくれ」
「十五歳で良いのか」
たわいのない会話が行われている。
しかし、不可解な事は気になるところだ――そうミーアは肝に銘じた。
ノールオリゾン国、その一国で、例の三人はいた。
「エルマが、捕まっただとォ?」
「ニコラくん、声がでかいよ」
「ニコラ、声、大きい」
アレックとセレナの総ツッコミに、ニコラは悪ぃと一言告げた。
しかし、エルマが捕まったとは。
ニコラとエルマは幼なじみだ。幼なじみが捕まったとなれば、あの冷静なニコラでも驚きと不安を隠せないのだ。
「助けに行くぞォ」
「もう、こっちは多分お尋ね者だって、止めといた方が良いよ」
「だけどよォ、エルマを黙って処刑されるのを見てられるかよォ」
「エルマ、きっと、自由、欲しい、思う。私、救いたい、エルマ――」
ニコラとセレナはエルマを救いたいというらしい。
多数決で言えば、助けに行くの方が多い。
つまり、アレックは折れなければならないだろう。
「仕方ないね。ノールオリゾン城へ忍び込むよ。ニコラくん、ヘマしないでね」
「おめェだろ、ヘマしてるのは」
「セレナちゃん助ける時もたもたしてたのは、ニコラくんだよ……」
とりあえず、忍び込む方法を考えなければ。
アレックはニヤリと微笑み、思考を張り巡らせた。
「ただいま、ノエル。貴方帰ってたのね」
「ああ。ミーアさん、ラルフ、無事帰ってきて安心した」
ミーアとラルフが帰ると、長身の男――ノエル・クレイが出迎えた。
ノエル・クレイはソレイユ家の研究所に勤める、天才だ。
「ノエル、なんだか浮かない顔をしてるわね」
「そんなことは無い、いつものノエル様だ。それより、ラルフ、仕事見つかったか?」
「仕事は多分見つかる。ケーキ屋でも始めようかと」
「お前、お菓子作りは得意だもんな」
「他にも得意な事はある、全く、お前みたいに頭が理系じゃないんだ、俺は!」
「はいはい。じゃあ、俺はちょっと席外しますね、ミーアさん」
そう言い、ノエルは自室に向かった。
「ノエル、どうしたのでしょうね? なんだか思い詰めてたようだったけど」
「どうせ、研究が上手く行かなくて思い詰めてるんだ。あいつのことは放置がいい。実験で飯を忘れるぐらい、熱中したら、何も出来なくなる奴だ」
早くご飯を食べようとばかり、ラルフはミーアに訴える。
仕方ないわね、とミーアは食事の準備を始め、ノエルのことはあまり思い止めようとはしなかった――いつもの事だと、決めつけた。
ミーア達が帰ってくる前の話。
ノエルが早めに帰宅した時、謎の封書が出てきた。
オリジン――という名の差出人。
当然、オリジンなど知っているはずも無く、ノエルは開けずにいた。
だが、上質の紙の封書が気になり、開けるだけならと、ノエルは封を開けてみた。
中には一通の紙。紙にはこう書かれていた。
ソレイユ家の令嬢――エイミーを暗殺しろと。
さすれば、お前の昇格は保証する、と。
やけに綺麗な字で綴られている所、高貴の身分の者が書いたものだろう。
しかし、暗殺など出来るはずはない。
彼女――エイミーの姉、公にはされていないが、姉のローゼと、ノエルは付き合っている。
だが、最近は上手くいっておらず、見かねたローゼからは研究所を破門にするとまで言われている。
どうせ、破門にされるぐらいなら、いっその事、研究所を守るために――ノエルは策を巡らせ始めた。
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