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エレン達がリーフィ村に来て1週間が経った。
相変わらず、エレンは呑気に花畑で花を摘んでは、フェイに見せ、誉れを貰おうと必死だった。
今日も、同じようにエレンはフェイと同じように、花摘みに行った時だった。
道端でノールオリゾン国の役人が村の住人に納税を取り立てていた。
その声はとても怖く、エレンはその声に体を震わせ、驚いて見せた。
役人は住人を足蹴りし、暴力を振るっている。
その様子にエレンは勿論、フェイは心を痛めた。
かつて、フェイは母親にそのように扱われた事がある。その事を思い出したのだろう。
「フーくん、どうしたの?」
エレンは顔を顰めるフェイに対し、尋ねてみせる。するとフェイはエレンの手を引き、その場を立ち去った。
「エレン、お前には王女として民達の痛みを分かってあげられる人になって欲しい」
「そうだね。あんな可哀想な事、見てられないもん……フーくん、私はお父様の志を受け継がなくてはならないのね」
エレンは最後の花を摘み終わると、フェイに手渡した。
フェイは慣れないように笑ってみせる。その姿が、エレンにはもの悲しく見えた。
「さあ、エレン。行くぞ」
「あ、待ってよ、フーくん!」
エレンが再び王女として立ち上がるには、力を蓄えなければならない。
その為にも、フェイは誓う――シュヴァルツ王国の再建を、エレンをずっと見守っていくと。
その頃。
柚達が暮らしている住まいに、ツツジの里から客人が来た。柚は食料の調達で出ており、その客人はミツルが対応した。
「アニタ様!」
客人とは、玲の婦人であるアニタと従者だった。
アニタは笑顔で、ミツルに話しかける。
アニタは過去、ツツジの里の武人として有名だった人物だ。人望も厚い。
ミツルも近親者の玲じゃなく、アニタの方が好きだった。
「ミツルくん、側でエレン姫様が暮らしている話なんだけど――分かっているわよね?」
だが、アニタは今回ばかりは玲のように冷たい笑顔で告げる。
それは、脅しであり、脅迫であり、強制的な命令。
「分かっています」
「恐らく、柚さんは失敗するでしょう。あの子はとても優しい子だから、だから、ミツルくん、貴方がエレン姫を殺して頂戴」
さすれば、ツツジの里はノールオリゾン国の功績者として取り立てられる。
「分かっております、分かってます……」
「貴方なら出来ると思っているわ、ミツルくん」
ミツルは歯を食いしばり、アニタの要求を呑んだ。
アニタはそれを確認するや、従者と共にツツジの里へ戻っていった。
恐らく、柚には出来ないだろう。
柚はああ見えて優しいところがある。ならば、非情な自分が暗殺を企てるべきだ――ミツルはそう考え、俯いた。
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