第01章 暗躍する闇と影

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 風が走る、走る、勢いを付け、真っ直ぐに。  ノールオリゾン城の地下牢で、怒号が響き渡る。兵数名が騒ぎ出す。 「いたか!」 「こっちには居ない」 「全く、何処へ行ったんだ、予言者を連れ去った犯人は――」  兵達はくそうと悔しがりながら、駆け出す。  その様子を端から見る、一人の青年――アレックの姿があった。 「アレック殿、アナタには感謝するんだな」 「エルマちゃん、まだ油断は禁物だよ」  背の小さい女性――エルマは、窮屈な牢屋から出られた喜びに浸る。しかし、アレックは静かにと、彼女を制した。 「エルマ、無事かァ!」 「ニコラ、アナタがワタシを助けに来てくれたのは予想外なんだな」 「なァに言ってんだァ、おめェは予言者だろ、この事も予測してただろ」 「まあ、そうなんだな」  無事、アレックはエルマを連れ出す事が出来た。今回も間一髪だった。  自分は遊び人より盗人を名乗った方が良いのだろうか、そう自問するも、アレックはそっと夜風に当り、息を整える。  一方、エルマは仮初めのシュヴァルツ王国の姫――セレナを見据えた。 「やはり、助かってしまったんだな。まあ、そうでなければ、シュヴァルツ王国は復活しないんだな」  エルマは目を細め、セレナを再び見据える。  彼女達の運命が交わる時――恐らく、その時が訪れる。その時はいつなのか、予言者のエルマでも分からない。予言者とは不便にもそこまでは予測出来ないのだ。 「私、生きたい、生きたい……」 「壊されるぐらいなら、なんだな。命無きものなのに、それを臨むのは滑稽なことなんだな」 「エルマァ、滑稽とはどういう意味だァ?」 「そのままの意味なんだな」 「二人とも、そこまでにして、ここを早く離れよう。追っ手が来てる」  さあ、この場所を離れよう。少し先を歩いていたアレックは三人に視線で告げた。三人は口を噤み足早にアレックを追いかけた。  とある、元シュヴァルツ王国領地の酒屋――アレックはとある人を待っていた。 「ジュリアちゃん、今日も綺麗で可愛いね」 「アレック、御託は良いわ。さあ、中に入って話をしましょう」  中は、流石、ノールオリゾン国に奪われた土地柄も反映され、人の出入りは少なかった。これは、好機と言えよう。 「で、話は何?」 「情報を売ってあげる。天使教の教皇――セラビムが、ノールオリゾン国と繋がってるわ」 「待って、売って欲しいとは言ってないよ。でも、その情報、どういう事?」 「とある、人に聞いたんだけど、教皇とノールオリゾン国の側近二人が会ってたのよ」  ジュリアはグラスの中に入ってた酒を飲み干し、告げる。 「ツツジも天使教もノールオリゾン国側よ? そんな中、エルマの予言は当たるかしら?」 「俺は、セレナちゃんを守るだけだよ。マスター、お代置いておくね」  アレックはそう言い、小銭を何枚か置き、ジュリアの方を見据える。 「レオン君と、ラルフ君は元気?」 「あり得ないぐらい元気だから、安心して」 「なら良かった。二人には心配かけてるからね。でも、心配しないでって言っておいて」 「心配かけない保証なんて何処も無いわよ。貴方、危険な立場なのよ? 仮初めの姫なんて……」 「そこまでだよ、ジュリアちゃん。そこまでだ……、幼なじみとはいえ、言っちゃ駄目だからね」  そう言うと、アレックは立ち去った。  ジュリアはその様子を見据え、見据え、呟く。 「アレック、貴方、どうしたのかしら? らしくないわよ」  ジュリアはそう言い、その場から立ち去ったのだった。
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