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風が走る、走る、勢いを付け、真っ直ぐに。
ノールオリゾン城の地下牢で、怒号が響き渡る。兵数名が騒ぎ出す。
「いたか!」
「こっちには居ない」
「全く、何処へ行ったんだ、予言者を連れ去った犯人は――」
兵達はくそうと悔しがりながら、駆け出す。
その様子を端から見る、一人の青年――アレックの姿があった。
「アレック殿、アナタには感謝するんだな」
「エルマちゃん、まだ油断は禁物だよ」
背の小さい女性――エルマは、窮屈な牢屋から出られた喜びに浸る。しかし、アレックは静かにと、彼女を制した。
「エルマ、無事かァ!」
「ニコラ、アナタがワタシを助けに来てくれたのは予想外なんだな」
「なァに言ってんだァ、おめェは予言者だろ、この事も予測してただろ」
「まあ、そうなんだな」
無事、アレックはエルマを連れ出す事が出来た。今回も間一髪だった。
自分は遊び人より盗人を名乗った方が良いのだろうか、そう自問するも、アレックはそっと夜風に当り、息を整える。
一方、エルマは仮初めのシュヴァルツ王国の姫――セレナを見据えた。
「やはり、助かってしまったんだな。まあ、そうでなければ、シュヴァルツ王国は復活しないんだな」
エルマは目を細め、セレナを再び見据える。
彼女達の運命が交わる時――恐らく、その時が訪れる。その時はいつなのか、予言者のエルマでも分からない。予言者とは不便にもそこまでは予測出来ないのだ。
「私、生きたい、生きたい……」
「壊されるぐらいなら、なんだな。命無きものなのに、それを臨むのは滑稽なことなんだな」
「エルマァ、滑稽とはどういう意味だァ?」
「そのままの意味なんだな」
「二人とも、そこまでにして、ここを早く離れよう。追っ手が来てる」
さあ、この場所を離れよう。少し先を歩いていたアレックは三人に視線で告げた。三人は口を噤み足早にアレックを追いかけた。
とある、元シュヴァルツ王国領地の酒屋――アレックはとある人を待っていた。
「ジュリアちゃん、今日も綺麗で可愛いね」
「アレック、御託は良いわ。さあ、中に入って話をしましょう」
中は、流石、ノールオリゾン国に奪われた土地柄も反映され、人の出入りは少なかった。これは、好機と言えよう。
「で、話は何?」
「情報を売ってあげる。天使教の教皇――セラビムが、ノールオリゾン国と繋がってるわ」
「待って、売って欲しいとは言ってないよ。でも、その情報、どういう事?」
「とある、人に聞いたんだけど、教皇とノールオリゾン国の側近二人が会ってたのよ」
ジュリアはグラスの中に入ってた酒を飲み干し、告げる。
「ツツジも天使教もノールオリゾン国側よ? そんな中、エルマの予言は当たるかしら?」
「俺は、セレナちゃんを守るだけだよ。マスター、お代置いておくね」
アレックはそう言い、小銭を何枚か置き、ジュリアの方を見据える。
「レオン君と、ラルフ君は元気?」
「あり得ないぐらい元気だから、安心して」
「なら良かった。二人には心配かけてるからね。でも、心配しないでって言っておいて」
「心配かけない保証なんて何処も無いわよ。貴方、危険な立場なのよ? 仮初めの姫なんて……」
「そこまでだよ、ジュリアちゃん。そこまでだ……、幼なじみとはいえ、言っちゃ駄目だからね」
そう言うと、アレックは立ち去った。
ジュリアはその様子を見据え、見据え、呟く。
「アレック、貴方、どうしたのかしら? らしくないわよ」
ジュリアはそう言い、その場から立ち去ったのだった。
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