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晩酌の時間。
いつも通り、ソレイユ邸では豪華なディナーが催される。
戦争で負けたというのに、豪華な食事が出来るのは、ソレイユ領主がノールオリゾン国に魂を売っているからだ。
「エイミー、ルイス様の事だが……」
領主である父の言葉に、エイミーは軽く頷いて見せた。
一度婚約は取り消しになったが、強硬なノールオリゾン国派を作るにはグローヴァー家第一子息であるルイスと、公爵令嬢のエイミーの婚約が必要だ。
「私より先に、エイミーは結婚するのですね。少し羨ましいですね」
「ローゼお姉様、お姉様はノエル様と……」
「実はこの間、破局しました。お父様、ノエルの事は諦めます。だから私も早くエイミーのように結婚し、家庭を持ちたいです」
ローゼは凜とした態度でそう言い、一口ワインを飲んだ――その時だった。
「うっ……!」
突然、ローゼは息を荒々しくし、もがき始めた。
「ローゼお姉様!」
「あ、ああああ、ああああああっ……!」
床に倒れ、暫く奇妙な動きをしたあと、ローゼは息をするのを強制終了させた。
「ローゼお姉様! ローゼお姉様!」
ローゼが飲んだワインには毒物が含まれていた。
犯人はすぐに分かる事になる。このワインを差し出した当本人――ノエル・クレイだ。
研究所を出ようとした所を、兵に止められ、ノエルは連行された。
もし、あのまま、エイミーがワインを飲んでいれば、エイミー自身危なかったかもしれない。
ノエルは過去の恋人を自ら殺めてしまった事になる。つまり、エイミー殺害の指令は実行出来なかったのである。
「オリジン……、この方が、私を、私を……」
姉の葬儀が行われ、検知した毒物――それは奇しくも、ルイスの父が殺されたものと同じだった。
「オリジン、か。エイミー、まさか、ダニエル様が?」
「恐らく、そうでしょう。シュヴァルツ王国三大貴族の中で、彼だけが、親シュヴァルツ王国側……、徹底的にマクスウェル家を追求しなくては」
「ああ、そうだよな。そのせいで、俺はイオンを失った」
イオンも、そしてノエルも、今はノールオリゾン国の牢屋で過ごしている。
だが、オリジンがマクスウェル領主のダニエルということを裏付ける証拠は今はまだない。
ルイスそしてエイミーは、事実究明のため動き出したのだった。
その頃。
マクスウェル家邸で、ダニエルは書類を片付けていた。
「ダニエル様、お茶をどうぞ」
「あれ、君は……、どこかでお会いしたことがあるね?」
「あ、え、えっと、私はありませんが……」
「あれ、気のせいかな? まあ、良い。名は?」
「アリア、と言います」
「アリアちゃん、分かった。覚えておくね」
アリアと名乗った少女――まさに、先日ダニエルを探りに天使教会から派遣されたモニカの事だ。
モニカは自分を気に留めてくれるダニエルと再会し、再び恋心を募らせた。
ダニエルは、モニカの幼少の頃世話になった青年だ。
モニカは浮かれ、ダニエルの寝室の掃除をしようとしていた時だった。
「ダニエル様、エイミー様暗殺は失敗やったな。これやと、ダニエル様の身が危ぶまれるで」
変わった口調の女が、ダニエルと会話をしていたのだ。
見るに、異の民――ツツジの里の者だ。
「少し、暫く様子見という事にするよ。焦ってしまっては、こちらが危なくなる」
その言葉を発したダニエルの形相は凄まじく恐ろしいものだった。モニカはそのダニエルの表情に、鳥肌を立たせ恐怖に感じた。
でもしかし、モニカはダニエルの事を信じていた――彼が、暗殺などするはずなどないと。
任務のことも忘れて、モニカはその場から立ち去った。その様子を、七瀬は見逃せなかった。
「あの子、天使教会からの子やで。気を付けりい」
「あの子が? アリアちゃんがかい?」
「あの子、本名はモニカ・ベレーナ。天使教会の神子やで。あんさんも天使教会から目を付けられるとはなあ……、悪行が有名になったんやない」
「七瀬ちゃん、忠告ありがとう。そうだね、気を付けるよ」
残念ながら、アリアちゃんは――モニカちゃんは、気に入ってたんだけどねと、ダニエルは付け足すや、自分の護衛兵にモニカを牢屋に連行するように命じた。
この事はしばらくの間、公にはされなかった――そう、しばらくの間は。
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