第00話 姫の逃亡劇

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 灯火がゆらりと灯る。 「以下の通り、未来は、再び戦火に見舞われるんだな」 「それは本当なの、占い師エルマ?」 「情報屋ジュリアさん、ワタシの能力を疑っているんだな?」  小さな家の小さな部屋、その場所に占い師のエルマが住んでいるという。その噂を聞きつけた情報屋のジュリアは、情報集めの一環で、エルマの元に来ていた。 「いえ、そういう訳じゃ無いわ。お話ありがとう」 「最後に一つだけ、一つだけ言わせて欲しいんだな。黒き王国は再び復活するんだな」 「そうで、あって欲しいわね」  ジュリアはエルマに一礼すると、立ち去る。エルマは暫く水晶を眺めていたが、何か首元に違和感を覚えた。 「間者とは、ノールオリゾン国も本気なんだな……でもまさか、ツツジの里が繋がっていたとは。香月真理奈殿――」 「ご名答。貴方にはノールオリゾン国に来て頂きます、占い師エルマさん」 「何をしたいんだな。ワタシの言葉は偽る事は出来ないんだな」 「そうですか。貴方がシュヴァルツ王国の元帥――ウィル・リーヴィと繋がっている事は調査済み。この事を知れば貴方の命も在りませんよ?」 「ツツジの里も、訳が分からないんだな……どうすればいいんだな? ノールオリゾン国が繁栄すると言った方が良いんだな? 残念ながら、それはあり得ないんだな」  ため息を吐き、エルマは真理奈を見据える。その視線は軽蔑を意味していた。 「貴方方には、言うことは無いんだな」 「姫の居場所を教えて欲しいんです」 「ワタシは知らないんだな」 「白を切るつもりですか、致し方ないですね――カイ様、この者を」 「真理奈姫、了解。この占い師を連れてけば良いんだな」  ノールオリゾン国はツツジの長――玲と繋がっているというのは、本当だった。エルマはその意味を確かめると、黙って真理奈とカイに従った。 「情報屋の事が気がかりだが、どうする? 真理奈姫」 「たかが、情報屋ですよ。しかし……」  たかが情報屋だが、エルマの予言は効力がある。もし、情報屋が漏らせばノールオリゾン国の覇権が揺らぐだろう。  シュヴァルツ王国国王、姫の処刑の時間は刻一刻と近付いている。この地は既に、ノールオリゾン国の物だ。だからこそ、ツツジの里は生き残っていかなくてはならない。 「ところで、少し気がかりな事がある。香月七瀬――彼女が最近怪しい動きを見せているようだ」 「従姉妹とて、ツツジの里の掟に背けば命は在りません。カイ様、調査を」 「了解、真理奈姫――」  全て、全て報告しなくては。予言者でもある占い師エルマが、再びシュヴァルツ王国は復活すると言うことを――兄・玲に。  ツツジの里は揺れている。どの国に付くべきか、否や。
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