第00話 姫の逃亡劇

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 リーフェ歴二〇四九年五月十六日。  ノールオリゾン国に滅ぼされたシュヴァルツ王国の王、姫の処刑が執り行われる。  檻の中に入れられた仮初めの姫――セレナはそっと天井を見た。  この檻の中はどうして無表情なのだろう。  今の自分も恐らく、無表情なのだろう。  仮初めの姫、エレンの替わりとして、自分は壊される。  そんなことをすれば、本物の姫はただでさえ身を危ぶむというのに――何故、元帥はこのような指示をしたのだろう。  コツン、コツンと、床を掠める音が聞こえる。恐らく、兵であろう。再び波乱の時は迫っている。 「セレナァ、こっち来い。命令だァ」 「セレナ……? 貴方、誰?」  セレナはそっと男を見据えた。すると男は兜を外し、セレナに手をさしのべる。 「ニコラ……?」  ガチャリと鍵が外される。ニコラはニヤリと微笑を浮かべ、告げる。 「お前を助けに来た。お前を仮初めの姫になんかにはさせねェ。親の俺が言うんだァ。ほら、来い!」  ニコラはセレナの手を握り、引っ張る。セレナは自ら、檻の外へ出ている感覚に触れる。  ああ、私は自由なんだ。これを、臨んでいた。  鉄の塊だからとて諦めていた自由を手に入れれる。 「アレック、わりぃ、時間かかってしまったぜェ」 「遅い遅い、見張りの兵どんだけ倒したって思ってるの?」  外で青い長髪の男が剣を鞘に入れ、自慢げに笑って見せていた。 「私、自由?」 「そうだよ、セレナちゃん。君は自由だ――誰にも、君の自由を奪わせはしない」 「自由、嬉しい……」  セレナには他の機械人形とは違った所がある。  それは心だ。彼女には感情や思いがある。  それを施したのは技師・ニコラであり、そう考えたのはアレックだ。 「さあ、逃げるよ」  そう言い、セレナ達は王国を飛び出した。  この出来事がやがて、波乱を、大きな波乱を生むだろう。  世界は謳うだろう。呟くだろう。  一人の少女と仮初めの少女が、やがて運命を交錯し始めると――
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