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天使競総本山であるリーフィ村。
そこで、一人の女性と男性の婚礼が行われていた。
「アリス・ティラー、汝は今日からこの青年――セシル・ユイリスを愛すか?」
「ええ、神に誓います」
「セシル・ユイリス――、汝は今日からこの女性――アリス・ティラーを愛すか?」
「ああ、神に誓おう」
老爺は二人の手を重ねるや、小さく頷いた。
「これより、セシルはアリスの、アリスはセシルの伴侶となった。神――エンゲルは、お前達を認めるだろう」
「ありがとうございます……、神――エンゲル、教皇――セラビム」
「二人とも、幸せになるのだぞ」
最後、セシルは軽く、アリスの額に口づけを交わすや、婚礼は無事終わったのだ。
その様子を静かに見守っている白神子――ユウがいた。
ユウは複雑な心境で二人を見守っていた。アリスを祝福したい気持ちと、アリスを奪った男――セシルに嫉妬の気持ちで、どうにかなりそうだった。
「アリスさん、セシルさん、ご結婚おめでとうございます」
「ユウ様、この度は貴方のおかげで、結婚式を挙げる事が出来ました。これもエンゲル様を始め、セラビム様、勿論、ユウ様達神子様方のおかげですよ!」
「二人とも、幸せになって下さいね」
それだけ言うと、ユウは教会の中に入っていた。
「さあ、セシルさん。帰りましょう」
「ああ。しかし、天使教は深いのだな。あまり信仰したことはないのだが……」
「セシルさん、天使教は祈りを捧げるだけで極楽浄土に行けるのですよ?」
「アリス、本当に天使教に詳しいのだな」
「だって、皇女――エレンも愛していたのですよ、天使教。詳しいというか、好きなんです。こういう、素敵な信仰。だから、セシルさんも祈りましょう。きっと、私達の生活を見守って下さいますよ!」
セシルはアリスの熱狂振りに圧巻しながら、新しい住まいへ向かっていた。二人の新たな生活は始まったばかりだ。
その夜、いつもの勤めが終わり、ユウは就寝しようとしていた。
その時だ。自分のすぐ側をどうみても異国の人間と思わしき者が、通り過ぎた気がした。
「どうして、ノールオリゾン国の方が……」
その者はノールオリゾン国の者だった。その者は、教皇がいる部屋へ入っていたのだ。
何故だろう――ユウは、胸騒ぎがした。これでは寝られるはずもない。
ユウはそっと、彼らを追ったのだ。
「――姫様は、リーフィ村に住まわれているね。ユーグ・セラビム教皇」
「ああ。勿論、保護をしている。大丈夫だ、時が来たら、彼女達を渡そう」
「先日、失敗したばかりなんだよな。檻から逃げ、調べてみたらさ、偽物だった訳でさ、こっちは焦った焦った」
「シルヴァン様、クロエ様――どうか、この件は我に任せてくれないか。お前達も、亡国の姫がいては、上手く政が出来ない。その代わり、天使教の信仰を広める活動を許可して欲しい」
衝撃の事実が耳元に入れられる。
天使教を広めるかわり、姫――エレンを引き渡すという内密の会話。
エレン姫自身を裏切る行為ではないか、ユウは思わず、体を震わせ、恐怖を感じる。
信仰していた神は、何故このような事をするのだろうか。
これが、天使教の姿なのだろうか。
「……そこにいるのは、出てきなさい。ユウ・アレンゼ」
「あ、すみません。今の話のことは聞かなかった事に……」
「そうではない。お前に一役買って欲しいのだ」
セラビムはそう言い、ユウの元に近付く。
セラビムはにやりと、天使教の信仰の為だと告げ、伝える。
「お前がシュヴァルツ王国の姫の居場所を突き止めろ。なぜだか、あちら側が居場所を教えてくれなかったのでね……」
「一体、どうすれば……」
ごくり、とユウは唾を飲み、自分が信じていた道を絶たれた感触に、堪え忍んだ。
「アリス・ティラーは熱心な天使教の信者。その夫のセシル・ユイリスは、確か、シュヴァルツ王国騎士団長だ。騎士団長なら、姫の居場所ぐらい分かるだろう」
「彼女たちを探れ、と言うのですか」
「天使教の為だ。出来るな、ユウ・アレンゼ……」
「は、はい。その任務しかとつとめを果たして参ります」
ユウはそれだけ言うと、その場を立ち去った。
自分の神の為だ、自分の神の為だ――ユウはそれだけを念じて、アリス達を浮かべた。
彼女達をこれから自分は裏切るだろう。自分は神子の立場だ。教皇の命令は絶対だ。
だから、この行為は正しい――そう言い聞かせて。
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