月日は流れる

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月日は流れる

バリバリバリッ。 僕は左手でカレンダー上部の金具を抑えながら、右手で9月の紙を破った。 少し厚めの紙をギュギュと丸めながら10月の カレンダーを眺める。 月日が過ぎるのが遅いのか早いのか分からないけど、僕がパン屋のおばさんに会えなかった あの日から8年経っていた。 僕は結局、おばさんに会いに行かなかった。 北陸が石川、富山、福井の三県から成り立っている事、そこに行くためにはかなりのお金と 時間がかかる事を調べただけだ。 おばさんが親戚なら住所や電話番号が分かるから次の行動に移せたかも知れないけど、赤の 他人の僕が知り得ることは何もなかった。 たまにテレビで、お世話になった人や生き別れになっている親を探す番組を見ると応募してみようかと考えたりもした。 でも僕がおばさんにメロンパンをもらった 思い出は他の誰かを感動させる程の威力はない。 貧しいバイト生がメロンパンをもらったというだけで、このレベルの話はどこにでもあるだろう。 あの番組は誰もが涙なしでは見られないような波乱万丈なエピソードを求めているんだから。
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