月日は流れる

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大学生だった僕は35歳になり、生活も一変していた。 シンプルなシルバーの指輪を着けた左手で、 足元にまとわり付く息子の頭を撫でる。 「パパ、チョコパンちょーだい」 3歳の晃太は小さな手で僕のズボンを引っ張る。 「またチョコパン?今日はコーンパンにしたら?」 「嫌だ!ぜっーたいチョコパン!」 僕は笑いながら息子を抱っこして、二階の リビングから階段を降りていく。 柔らかな日差しの中で香ばしいパンの香りが 僕達を包み込み、僕の心は幸福感で満たされる。 一階まで降りると頭に三角巾を付けた嫁さんがサンドイッチを並べていた。 「あら、晃ちゃん起きたの?今日は早起きね」 「昨日、夜飯喰って、すぐにコテッと寝たからなぁ。さすがに目が覚めたんだろ。滉太、またチョコパン食べたいんだって」 僕は晃太を抱えたまましゃがむと、バタバタと落ち着きのない小さな足に靴を履かせた。 「晃ちゃん。今日ね、チョコパンないのよ。 ピザパン食べようか」 嫁さんがちょっとした嘘をついたが、晃太は 定位置まで小走りで行くと指差した。 「ママ、チョコパンここにあるよ!」 嫁さんと僕は目を合わせ笑う。 そう、僕はパン屋の店主となり家族も増えていた。
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