1人が本棚に入れています
本棚に追加
退職
実は6年前、僕は勤めていた会社を辞めた。
大学を卒業した僕は鉄鋼資材メーカーに就職。
かなりハードな仕事内容で、まるで急行列車になったかのように走り続けた。
何とか頑張れていたのは先輩にも恵まれていたし、給料・ボーナスが意外と良かったからだと思う。
安定のレールを走る急行列車。
残業が多くて休みの日も会社に顔を出し、
貯まった仕事をこなす毎日。
体も心もゆとりがなくなっていった。
おばさんのパン屋に一緒に行った彼女とも
ケンカばかり。
とうとう僕という名の急行列車は
「失恋」という駅に止まってしまった。
心の傷を忘れるために僕は更に仕事に打ち込んでいった。
そして次に止まったのは「入院」という駅。
時間に追われる日々で通勤時間も無駄に出来ない。
月曜の朝、歩きスマホで会社のメールチェック。
赤信号に気付かず横断歩道を渡ろうとした僕は車にはねられたんだ。
人生初めての救急車に乗り入院。
慌てて駆けつけた母親は泣きながら歩きスマホをした僕を叱った。
そこは僕も大いに反省。
忙しすぎる日々で善悪の判断すら出来なくなっていた。
メールチェックで危うく死ぬ所だった。
体だけは頑丈だった僕は医者もびっくりする程の軽症で済み、数日後にはテレビや雑誌を読む退屈な時間を過ごす事になった。
事故のせいでスマホも壊れて修理に出した。
担当していた取引先も、同僚が分担して引き継いでくれたようで僕の仕事は治療だけ。
あんなに時間に追われていた僕だが、今度は
時間とゆっくり向き合う事になった。
考える事は生きていて良かったという事。
そして、このままでいいのかという事。
そして行き着いた答えは急行列車を降りる事だった。
最初のコメントを投稿しよう!