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小さなお客さん
比較的、駅近の立地のお陰で早朝からパンは売れる。
学生、サラリーマン、高齢者、主婦など客層は様々。
8時を過ぎると客足もぼちぼちになって、
ようやく僕と奥さんはコーヒーを入れて
休憩。
店の奥に置いた丸イスに座り、嫁さんと
今日来てくれたお客さんについて話している時、4~5歳の男の子がガラス越しに、懸命に中を
のぞき込んでいる事に気付いた。
何を見ているんだろう?
嫁さんをつついて目で合図をした。
嫁さんが小声で呟いた。
「値段を見てるんじゃない?」
「値段?中に入って見ればいいのに」
そう言った僕に嫁さんが言う。
「お金、持ってないとか?」
それを聞いて改めてその子を見る。
髪の毛も伸びっぱなしで服装も季節に合っていないような気がする。
僕はパンを整理するふりをしながら男の子が見ているパンに近づき、パンの値札を外側に向けた。
男の子はパンの値札と手の平にある小銭?を見比べていたが、しばらくするとうつむきながら去っていった。
僕はたまらず立ち上がる。
すると嫁さんが言った。
「どうするの?」
「たぶん腹減ってるけど金がないんだよ!いいよ、ある分の金額で売ってやろう」
僕は正義を振りかざして言った。
でも嫁さんは冷静に否定してきた。
「それはダメよ。他のお客さんが買ってくれている物を、あの子にだけ安くは売る事はできない」
「でも・・・」
僕は唇を噛み締める。
嫁さんは更に続ける。
「それに同情されて数日パンを買えたとしても、あの子だって来づらくなるかも知れない」
確かに嫁さんの言う事は一理ある。
子供といっても他人の反応には敏感だ。
大人の表情やなんかで何かを感じるかも知れない。
僕の浅はかな感情で動く事は、ただの綺麗事に過ぎなかった。
みんなと同じように堂々とあの子に店を訪れて欲しい。
何も恥じる事なく買い物して欲しい。
そのためにはどうすればいいんだろう。
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